ーOOO-注射はキライです

 健康診断で採血することになった。
 オトナだから慣れたとはいえ、でもやっぱあの針先がイヤだ。
「さ、両手を出してください…どっちで採血しましょうか」
と、ベテラン看護師さんが貫禄を感じさせる声で聞いてくる。
 いや、まあ、イキのいいところで、ブスッとやっておくんなせい。
 と、看護師さんはスイカでも買うみたいにオイラの腕をポンポン叩く。何を調べているのかは不明。
 どうやら今日はオイラの右腕が血の抜き頃らしかった。
「はーい、ここんトコから血を抜きますからねー」
と予告しながら肘の内側を消毒する。
 うー、ココか。意識しなくていいのに、そこに意識が集中してしまう。
「はい、行きますよー」
 ぶすり。
 …痛ぇ。
 オトナだけど、痛いモンは痛い。
 んで、針が刺さってるところに顔を向けられない。
 痛いのはなんとか我慢するけど、ブスッと腕に刺さっている状態がイヤだ。なんかもう直視できない。
 思わず横を向くオイラ。
 と、そこにあった鏡に自分の姿が映る。
 採血されながらも恐くて注射針が直視できない、かっこわるい自分。
 あまりのかっこ悪さに、ついニヤっとしてしまった。
 そしたら「採血されている最中にニヤけている自分」の姿があまりにも滑稽だったので、ますますニヤけてしまった。
 看護師さんが
「あら、採血しながら笑ってる」
「いや、痛いモンは痛いんですけど」
「笑ってるなんて、変わってますよ」
 二人で顔を見合わせて、笑った。
「いやあ、オトナなのに採血を怖がっちゃうなんて、オレかっこわるいなぁと思って」
「採血の最中は、どんな人でもものすごくコワイ顔をしてワタシのことをにらむんですよ」
「そういうモンですか」
「そういうモンですよ」
 で、笑いながら採血は終わったのでした。