ーOOO-いっぽんの帯…神戸マラソン2012参加記(2/4)

 (承前


 いよいよはじまる神戸マラソン2012。
 スタート地点にはファンファーレが鳴り響き、そして時刻は午前9時。
 「さあ、スタートです!」
 …といわれても、わたしには「パーン!」という号砲一つ聞こえるわけではありませんでした。
 なにしろ参加人数2万人。そのスタート地点はあまりにも広い。
 みんなまったく動き出す気配がありませんでした。
 「え、スタートなの?」
 「スタートしたの?」
 とりあえずワタシたちは、全員で拍手をしました。
 
 晴れてはいるものの、ビル風なのか六甲おろしなのか。風が吹き抜けて、本当に寒い。みんなその場に立ったまま足踏みをしたり、ストレッチをしたり、なんとか寒さをしのいでいます。

 5分くらいたったら、すこしずつ行列が歩き始めました。
 見上げれば、マンションの上からワタシたちに手を振る人たちがいました。こちらも「おーい」と手を振りかえしたりして。

 ようやくワタシがスタートラインを通ったのは、15分後のことでした。
 左側の台の上からは、ピンク色の服を着た高橋尚子選手がニコニコしながら「いってらっしゃーい」と手を振っていました(かなり見えにくい写真で、すいません)。
 
 スタート地点を越えたあとは、みんな自分のペースで走り始めます。
 今まで並んでいた行列が崩れ、ワタシの周りにいた人たちの顔ぶれはどんどん変わっていきます。
 いつしか、周りは同じペースで走るヒトばかりになっていきます。
 そうなると、同じ頭や背中ばかり見ているから、目の前の風景は変わらない感じになってきます。

 しばらくすると、意識しなくても足が勝手に動いて、走っているという意識がなくなっていきます。
 足だけをバタバタと忙しく動かしながら、川を流されていくような、不思議な感覚がやってきます。

 そして沿道には、応援してくれる人たちが途切れることなく、どこまでもどこまでも続いています。
 「がんばれー!」と声をかけてくれる人がいたり。
 和太鼓を叩く人たちがいたり。

 身近な仲間を応援する人たちだったり。
 人混みの中から、自分を応援しにきてくれたヒトを見つけた瞬間、わっと走り寄ってうれしそうに声を交わす。…そんな風景を、なんども見かけました。

 もちろん走る人だって、いろんな人がいる。
 こちらはスーザフォンをかついで走っている人。
 応援された時には立ち止まって、ボペボペボペーと曲を奏でたりして。後ろで見ていて楽しかったです。

 コレ、重さ8kgという話なのですが、足が速くてワタシは追いつけませんでした…。健脚だなー!
 こちらのかたは、1000スマイルプロジェクトというたすきを掛けて走っていました。
 TOKYO FMのDJさんらしいというのはわかったのですが。

 あとで調べてみたらKISS FM KOBEや、FM FUJIでも番組を担当なさっているDJさんなのだとか。へーへーへー。


 マラソンでは、知らない街の景色をながめるのも面白いものです。
 吉野家なんだけど、なんだかおしゃれな建物ですよね。(ゆがんで見えるのはスマホのカメラのせいです、スミマセン…)


 ほんでもって、前日見かけた鉄人28号の前を通り過ぎます。
 なにげなく走り過ぎてしまいましたが、今調べてみると、この鉄人がいる神戸市長田区のあたりは震災の被害が大きかった場所だったということです。

 建物はきれいになったけれど、街の人の流れが大きく変わったために、現在もまだいろいろと大変なようでした。
 
 風船をつけて走っているのは、ペースランナーさんです。
 何組ものペースランナーさんがいるのですが、こちらのみなさんは6時間で完走するペースで走っていました。
 ワタシも後ろを同じペースで走ってみたのですが、そのときは「ちょっと遅い」ような気がしました。
 アタマの中で、いろいろ考える。
 こないだのハーフマラソンは2時間半で走ることができた。すると、のこりは4時間30分。21kmを4時間半なら、時速5kmくらいだ。歩いても楽勝。
 正しいのはペースランナーさんについて行くことだろうけど、今日の自分は走っていて気持ちがいいから、このまま自分のペースで走ろう。苦しくなったら、歩けばいいんだし。
 そう思ったのです。


 なにしろ暖かくて、気持ちいい。
 みんなで走ると、その動きで風が吹く。暖かい追い風が吹いてくる。
 自分たちで作り出した追い風にのって、行列は時速8kmで進む。

 このときワタシは、iPodを持って無かったけれど。
 でも、アタマの中では「元気がでる曲」をキーワードに、思い付く限りの自分の大好きな曲が、勝手にどんどんシャッフルされて、脳の中でフルボリュームで再生されています。
 よく見ると、高架下の壁に貼ってある巨大なイラストは、学生さんたちの書いた応援メッセージだ。
 何しろ走っているから、ひとつひとつをキチンと読むことはできなかったけど、とてもうれしいメッセージでした。


 駅のホームから、こちらを眺めている人たちがいます。
 写真は撮れなかったけれど、電車の窓から手を振る人がいたりして。
 とにかく、応援の列が途切れることがなかったです。

 
 神戸マラソンはほぼフラットなコースなのですが、ここで線路を越える跨線橋の坂がやってきます。
 ひー、キツい!
 けど、まだまだ元気なので、えーい!と越えていきます。
 
 橋のてっぺんからは、ランナーの行列が途切れることなく続いているのが見えました。


 
 ワタシが約10km走ったところで、折り返してきた先頭集団が、対向車線を走り去っていきました。
 そりゃあもう、すごいスピード!
 あのスピードは自分にはとても無理だというあたりまえのことが、いまさらのように身にしみます。と同時に、オリンピックやマラソン大会といったトップアスリートの偉大さが、よりはっきりと感じられました。
 そして、走っているのはランナーだけではありません。
 こんなふうに、ランナーに混じって救急救命士の方が走っています。

 さらに、走っているワタシたちをサポートしてくれるひとたちが。
 雑踏を警備する警察官、警備員さん、そして救急車や消防車もスタンバイしています。
 いろいろな人たちに支えられながら、ワタシたちは走っています。

 まだまだ続く応援の列。
 こちらの公園では、鎧を着けた人たちがワタシたちを応援してくれました。


 で、この写真の海の方を見てほしいのですが。
 海岸線づたいに漁船が一列になって、何艘も浮かんでいるのがわかりますか?
 よくみると、10艘以上あつまった船が全部、大漁旗をかかげていました。
 …あ、ひょっとして、みなさん漁の最中じゃなくって、ワタシたちランナーを応援してくれているんですかっ?
 なんだか、神戸の人たちが街ぐるみでワタシたちを応援してくれているような、そんな気持ちになりました。
 「完走したらプロポーズします!」と背中に書いたカップルたち。
 ワタシは追い抜いてしまったので、あとで「あの人たちは完走したのかな…」と気になっていたのですが。

 いましらべてみたところ、無事にゴールして、プロポーズに成功した(!)のだそうですぞ。
(参考→『神戸マラソン・あちこちレポート』: あお鬼の六甲さん歩


 
 遠く、目の前に、明石海峡大橋が見えてきました。
 実際に目にすると、うわー、デカいなー!
 それもそのはす、今調べてみたら、明石海峡大橋は世界最長の吊り橋なんだそうですよ。
 
 折り返し点が近づいてきて、人の波がごったがえしています。
 なにしろ、走っていてヒジが他人にぶつかっちゃうぐらい、ギュウギュウなのです。
 

 ワタシは2時間ちょっとで明石海峡大橋のたもとを折り返したわけなのですが。
 ちょうどこのころ、先頭ランナーはゴールに飛び込んでいたのです。
 先頭ランナーから、ワタシのいる折り返し点、そのうしろの選手、30分遅れでスタートした10kmマラソンコースの選手たち。そして最後尾を走るヒトまで。
 ランナーの行列と、それを応援する人たちの作る長い長い列は、いまこのとき神戸の街でいっぽんの帯になって、ひとふでがきをしていたのでした。


 楽しく走りながら、ふと思う。
 この折り返し点は、まだ18km地点なのだ。
 マラソンの距離は、まだ半分以上残っている。
 このさき、あと何時間走るのだろう?


 そしてワタシには気になることが、もうひとつ。
 それは、フルマラソンには「35kmの壁」があるということ。
 「35kmの壁」は分厚く、トップ選手でもここでペースを崩したりするらしい。
 ハーフマラソンしか体験したことのない自分には、まだ見ぬ「35kmの壁」が恐ろしくてたまらない。
 見えない壁に向かって、わたしは走り続けていたのでした。


 → つづく
  / 2 /
← 最初から読む