ーOOO-名前はまだ無い


 いつもゆかいな弊社なのですが、仕事がおわるころに不意に三毛猫の子ネコがあらわれたのです。
 フワフワした毛が残って、じっとしていてもフルフルしている。生後二ヶ月くらいだろーか?
 茶トラの兄弟もいたのだけれど、この三毛猫さんはやたらと人なつっこかった。
 もうとにかく誰にも仲良くする。
 ネコ好きならもうメロメロ。なでまくってハラなんかモフモフして。ちっちゃな肉球を押して小さく鋭いツメを出したり引っ込めたり。
 イヌ好きのヒトさえも「ネコにはネコのかわいさがあるな!はわわわ、かわいい!」
 もう、我が社のアイドルと化したのであります。

 わりと即、知人に飼ってもらうのはどうだろうか、と思い浮かんだ。
 ノラねこさんというものは、生後三ヶ月ぐらいで風邪を引いて目ヤニで目が見えなくなって、その山を越えるのが意外に難しいという印象。子ネコは元気なウチに保護したほうが幸せになれるだろうと言うこと。
 それからこの三毛さんは、過去弊社に現れた中で最も人なつっこい一匹だった。コイツはたぶんとても飼いやすいのではないか。
 それはとてもすばらしい思いつきだ、と思ったのだ。そのときは。

 とりあえず知人に電話をしたら、「仕事中なのであとでまた連絡します」と返事が返ってきた。まあそりゃそうだ。
 ということは、とりあえずこの三毛猫を自分が預かっておくしかないと言うことだ。
 母ネコと引き離すのは心苦しく思えたので、1時間くらい様子をうかがったのだが、子ネコはこちらにくっついてきて、オイラについて歩いて回った。母ネコもソレを引きはがしに来るでもなく、茶トラ猫だけと遊ぶようになってしまった。うん、まあ、大丈夫かな…?

 そういうわけで連れて帰ったのだが。
 電車に乗せて帰るとニャアニャアうるさいだろうからと、歩いて帰った。
 長い寒い夜道を歩きながら、いろいろなことを考えた。
 知人のヒトはたしかに何度も「ネコ飼いたいんですよね」とは言っていたけれど、それが「今日いますぐこのネコを飼え!」では面食らうだろうし、飼いたいネコのイメージもあるだろうし、いますぐ急に連れてこられても困るだろう。家の準備と心の準備ってモノがある。
 あー、なんか余計なことしたな…。
 だから、もしも知人が飼ってくれなかったら、自分が家で飼う、という覚悟を決めた。
 いや、知人が飼ってくれないなら、やはり母ネコに返すのがスジか? まてまて、面倒が見れないからノラネコに戻すというのは無責任だ。っていうか、うーん? どっちがいいんだろう?
 家に帰れば先住ネコの杏ちゃんさん(かわいい)が待っている。今までひとりでお留守番だったから、ふたりになれば楽しくなるんじゃないかと思うけど。でも、ケンカしないだろうか? 仲良く出来るだろうか?
 やっぱ、余計なことしたな…。
   
 家に帰ってから夜遅く、あらためて知人と電話をしたところ、「飼いたいです」とのお言葉をいただいて、ひと安心。ああよかった。
 んー、でもなんか急に変な話を持ち込んじゃってゴメンなぁ…。と言う気持ちもぬぐえねえのであった。

 そして我が家の杏ちゃんさん。
 いつもと違う気配に「んんんんん?」と鳴いてみせる。
   
 そーっと近づく…
   
 子ネコに「にゃあ!」と挨拶されて、ビビって後ずさりする。

 それ以来、家の中を我が物顔で歩く子ネコにビビって、杏ちゃんさんは押し入れの奥に隠れがちになってしまったのでした。
 子ネコもかわいいんだけど、いままで一緒だった杏ちゃんさんの豹変ぶりにビックリするオイラ。ふたりがケンカしないのはうれしかったけど、なんかこういうのも胸が痛むなぁ。ああああ。
 友人宅に名もなき子ネコを連れて行くのは、週末の予定です。