ーOOO- 力いっぱい、お疲れ様を - 東京マラソン2015ボランティア参加記

 東京マラソン2015が終わって、早一週間。
 先日チラリと述べたように、ワタシは今回ボランティアとして参加してきたので、そのときの出来事をご紹介しますね。


 東京マラソンの参加ランナーの人数は、三万五千人。
 そんな巨大なマラソン大会を支えるために、「TEAM SMILE」と呼ばれる総勢一万人のボランティアが42.195kmの各所に配置され、さまざまな活動を行っています。


 東京マラソンのボランティア「TEAM SMILE」に参加するには、まず事前のエントリーが必要です。11月の下旬に先着順で受け付け開始なのですが、わずか3日程度で一万人の定員が埋まってしまう人気ぶりです。
 大会の約一ヶ月前の1月下旬には、ボランティア向けのマニュアルが郵送で配布されます。
 そして大会前日の土曜日には、全てのボランティアが東京ビッグサイトに集まり、1時間ほどの講習を受けます。講習の最後には、ボランティアの着用するスタッフウェアとキャップが配布されます。そこに印刷された「TEAM SMILE」「STAFF」の文字に、身が引き締まる思いがします。


 いよいよ当日。
 ボランティアが42.195kmの各所に配置されるわけですが、その内容、活動地点も様々なら、その活動時刻も様々です。
 たとえば今回ニッポン放送のアナウンサー五戸美樹さんは、5キロ地点の給水ポイントのボランティアを担当したそうです。その集合時刻は朝7時半、準備をしていたらアッというまにレースが始まって、ランナーが通り過ぎていって、活動の終了時刻は午前11時だったのだそうです。


 ではワタクシの場合は?
 今回私が担当したのは、ゴール地点の東京ビッグサイトでの「手荷物返却係」でした。
 新宿都庁前でランナーさんたちがスタートを「今か今か」と待っている朝9時ごろに、私たちはビッグサイトに集合します。全員集合しての活動内容の説明、10名程度の班に分かれてメンバー同士の自己紹介。
 そのころスタート地点の新宿都庁から、手荷物を満載した佐川急便の大型トラックがやってきます。各班に別れて、全てのランナーの手荷物3万6千個をトラックから降ろし、ビッグサイトの床に並べ、番号順に整理し、返却が行いやすいように整理してていきます。床一面に整然と並んだ3万6千個の荷物は壮観。こういうのって、ブロガー的には写真を撮っておきたいところですが、ボランティア活動中はケータイやカメラの使用は禁止だったのでした。うむむ、無念じゃ。
 10時台には早めの休憩。というか、ここしか昼食を取るタイミングがない。
 そして11時過ぎにトップ集団のエリートランナーがゴールを通過。やがてパラパラと帰ってくる一般参加ランナー。12時を過ぎ、13時を過ぎるころにはゴールインするランナーがどんどん増えてきます。縦横無尽に床を走り回って、ランナーさんたちに手荷物を返却していきます。
 16時10分に全てのレースが終了。最後のランナーが荷物を受け取りに来る16時30分ごろまで私たちの活動は続きました。
 こんな感じで私たちは、ランナーさんがスタートする前からゴールした後まで活動していました。
 ということで私たちの班は最も活動時間が長く、かつ、肉体労働的なボランティアだったのではないでしょうか?


 
 (↑朝の TEAM SMILE 集合の様子。このときはスマホ制限前だった)


 さて、もうちょっとワタクシの体験した活動内容を掘り下げてオハナシしますね。
 そもそもワタシはなぜ、東京マラソンにボランティアとして参加したのか?
 もちろん、東京マラソンにはランナーとして参加したかったんですが、なにしろ倍率10倍、あえなく落選です。というときに、東京マラソンのボランティアをやると、翌年はランナー応募時の当選確率が上がるらしい、…という話を聞きまして。だから、ボランティアに参加した最初の動機は不純だったということを告白しておきますです。


 ということで、東京マラソンのボランティアをやってみよう!
 じゃあ、どの地点を?
 給水ポイントはあこがれの的だし。銀座は華やかだし、浅草は陽気そうだ。それからスタートやゴールで、選手と共にその瞬間の高揚感を味わうのも楽しそうだ。
 んで、ゴールのあとには「手荷物返却係」というのがある。
 コレはどうも地味で重労働そうでイケてないイメージだ。だけど、誰かがやらなければならない大切な仕事だ。自分があちこちのマラソン大会に参加したときは、いつも荷物係のボランティアさんたちの賢明さに、頭が下がった。
 何より、地味な縁の下の力持ちみたいな仕事は、自分に向いているような気がしました。


 手荷物返却係として実際に活動してみると、その仕事はやっぱり大変だったんだけど、最初から覚悟していたから、ある意味予想通りだったので、大変だけどキツイとは感じませんでした。
 だけど、やってみないとわからないことがたくさんあって、それはとても貴重な体験でした。


 私が参加した手荷物返却係のチームは全部で9名。小さなチームで、人数が他のチームの半分ぐらいだったのですが、担当する手荷物の数も半分ぐらいでした。
 チームリーダーさんは、「ところで最初に大事なことを説明しておきます」と言いました。
「会場のココとココにAEDがおいてありますので、何かあったら、全力でココに走って行ってくださいね」
「…あ、それってつまり、ここはゴールの直後の地点だから、帰ってきたランナーさんが倒れてしまう可能性があるってコトですか?」
「そういうことです」うなずくリーダー。
 東京マラソンに対してお祭り騒ぎで浮かれ気分でしたが、フルマラソンというスポーツの過酷さに気づかされ、チームの一同は気を引き締めました。


 私たちのチームは人数が少なかったのですが、そのことはとても良い方向に働きました。
 チームの全員が責任感を持ち、「サボってられない!」というか、「自分ががんばらないと、このチームは上手くいかない!」という軽い緊張感を持っていました。少ない人数で密なコミュニケーションをとり、各自の持ち場をその時々で勝手に見つけ、仕事の流れによってそれぞれが上手いこと働いたのでした。いやー、すごいチームだった。

 床一面にズラーッと並んでいる選手の手荷物は、まるでハクサイ畑みたいに見えました。
 遠くからやってきた選手のゼッケン番号を読み取り、いち早くワタシが荷物という名のハクサイを引っこ抜くと、チームの誰か全速力でやってきてソレを受けとり、選手に返却をしました。ハクサイをどんどん抜いているうちに、荷物置き場という名の畑がスカスカになっていくので、歩きやすいようにうねを作り直し、畑の間引きをし、ゼッケン番号が見やすくなるように植え替えをしました。手を加えていくたびに、荷物は探しやすくなり、荷物置き場は走りやすくなりました。
 このハクサイ畑の管理と収穫作業は地味だったのですが大変やりがいがあり、ワタクシ大変燃えました。
 ということで、私たちのチームの手荷物返却はムッチャ早く、返却を10秒以上お待ちいただいたランナーさんはいなかったはずだと、その仕事の速さに胸を張りたいです。


 もっとも、なにしろ全部で3万5千人のランナーの手荷物返却を行っていましたから、なかにはランナーさんを大変お待たせしたブロックもあったかと思います。ランナーさんたちにはお疲れのところ、大変申し訳ありませんでした。ただ、ワタシが個人的にあっちこっちのマラソン大会に参加した経験から言うと、東京マラソンは平均以上に手荷物返却の早いマラソン大会だった、と思っております。ヒドいとこはホントにヒドいんだよね…。


 やってみないと判らなかったのは、ずーっと拍手しっぱなしだった、ということでした。
 最初のランナーさんが12時頃にビッグサイトに入ってきたときには「お疲れ様でしたー!」「完走おめでとうございまーす!」と言いながら、たくさん拍手をしました。
 二人目のランナーさんにも、もちろん拍手を。
 三人目にも。四人目にも。
 時間がたつにつれ、ランナーさんが切れ目なく帰ってくるようになるので、もうずっと拍手しっぱなし、「お疲れ様でしたー!」「完走おめでとうございまーす!」と応援しまくり。
 拍手しないのは、自分たちの担当エリアの荷物を探している時だけ。そして無事に選手に手渡しすると、やっぱり「お疲れ様でしたー!」「完走おめでとうございまーす!」と拍手しまくり。
 もうとにかく拍手するか、荷物を返却するか。ずっとそんな感じ。


 15時頃。私たちの担当エリアの荷物が残り少なくなったところで、ワタシは持ち場を離れ、他の場所に応援に行かなければなりませんでした。
 応援と言うから、荷物返却の遅いエリアに行って、返却を手伝うのかなーと思っていたのですが。
 ワタシたちはビッグサイトの入り口に立って、帰ってきたランナーのみなさんに「お疲れ様でしたー!」「完走おめでとうございまーす!」と力一杯に拍手したのでした。なるほど。確かに応援だ!
 そういう感じで、昼の12時頃から、最後のランナーさんが帰ってきた16時半くらいまで、ワタシは拍手と応援をし続けたのでした。最後は自分の手首が痛くなるくらい、力一杯に応援しましたよ!


 やがて、レースの残り時間が少なくなっていきます。
 私たちの担当するエリアの荷物も残り少なくなっていき、残り3個になり、2個になり、1個になる。
 最後のランナーさんが、なかなか帰ってこない。
 と、そこに私たちのエリアの最後のランナーさんが、よろよろになりながら入り口をくぐり、こちらにやってきました!
 もう、わたしたちのチームは大盛り上がり!
 最後のランナーさんを囲んで、私たちのチームは「お疲れ様でした!」「本当に最後までお疲れ様でした!」と、ねぎらいのコトバをかけ続け、めいっぱいの拍手をしたのでした。


 私たちのチームは比較的早めに全ての手荷物を渡すことが出来たのですが、そうでないチームもありました。私たちの向かいのチームがそうでした。
 16時。手荷物は残り3個。
 16時10分。レース終了。
 16時20分。まだ受けとりに来ない荷物が、1個。
「どうしたんでしょうね?」
「リタイアだったら、収容バスに乗って強制的にこの会場に来るはずだから、まだ来ないって言うのはあり得ないな…」
「本当に途中でやめちゃって、まっすぐ家に帰っちゃったんでしょうか?」
「手荷物を取りに来ないで、手ぶらのまま、着替えもしないで帰るって言うのは、ちょっとあり得ないんじゃないかな…」
「うーん…」
 心配するボランティア。
 16時30分。
「ボランティアのみなさんお疲れ様でした。活動終了の時間です。撤収に入ります」
 最後の一個の荷物は、ボランティアの手から、待機していた佐川急便さんにお任せすることになりました。これはおそらく、大会事務局から選手本人の住所に発送返却するのではないかと思われます。
 ああ、とうとう最後の荷物は、ボランティアの手からランナーに渡すことは出来なかったなぁ…。
 と、そのとき。
 ビッグサイトの中に、ガラガラガラーっと車いすが入ってきた!
 東京マラソンのメディカルボランティアに車いすを押されて、ちょっと恥ずかしそうなランナーさんが飛びこんできたのでした。
 どうやらこのランナーさんは、レースの最中に足を痛めたらしく、必死の思いでゴールにたどり着いたところで動けなくなってしまったみたいでした。
 ランナーさんにボランティアの手から、最後の手荷物が手渡されます。
 と、そのとき、ビッグサイトにいた500名近くの手荷物係の「TEAM SMILE」が、いっせいに
「おつかれさまでしたー!」
といいながら、力いっぱい大きな大きな拍手をしました。
 車いすのランナーさんは、ちょっと恥ずかしそうな顔をくしゃっとさせて、笑顔を見せたのでした。



 東京マラソンの手荷物返却係の仕事は、ゴールしたランナーのみなさんに、力一杯「お疲れさま」という声援を送る仕事でもありました。
 肉体労働で、拘束時間は長く、ゴール間近にいるのに規制や警戒の関係でゴールを見ることが出来ず、ボランティアだから電車賃はおろかおにぎり一つもらえない。地味な仕事かなーと思っていたのですが、意外や意外、とてもやりがいのある仕事でした。
 他人にはお勧めしないけれど、ワタシにはとてもやりがいのある仕事で、楽しかったです。


 ま、次回こそはランナーとして東京マラソンに参加したいなーと思うワタクシなのですが。
 だけど今のワタクシは「手荷物返却を迅速に行うには、遠くからゼッケン番号をいち早く確認する手段が必要だ…そうだ、双眼鏡だッ!」と気が付いて、あっちこっちのサイトを検索して良い双眼鏡の選び方を学び、ビッグカメラに出向いてあれこれ手に取り見比べて、「買っちゃおうかな…いや、ちょ、待てよ、来年もまた手荷物係になれると決まったわけじゃないんだぜ!」と自分に言い聞かせる日々を送っているのでした。
 うーん、買っちゃうか? 双眼鏡…。ぶつぶつ。