ーOOO-車内泊の朝

「今朝、電車に乗ったら、そこだけポッと席が空いてるトコがあってナ。座ろうかなと思って近づいたら、イスの下で酔っ払いがゴローンと寝てやがったんだよ」


「あー。みっともないですよねー」


「ああいうのはサ、あんがい、起こしてもらうのを待ってたりするモンなんだよ」


「えー?」


「いや、そりゃぁそうじゃないヤツもいるよ。『起こすんじゃねぇ!』なんつってナ。でもさ、そうじゃないのもいるワケさ」


「はあはあ」


「だって酔っ払いの身になって考えてみろヨ。
床で寝てて、気が付いたら通勤の時間で、みんなが回りで自分のことを見てるワケだよ。恥ずかしくて起き上がれないゾ。
『さて、と…』なんつって床から起き上がってイスに座るのもマヌケだしナ。
かといって、ドアが開いた時に電車から逃げ出すのもカッコ悪いしなぁ。
だから、そのままずっと寝たふりをしてたほうがイイわけさ。
覚悟を決めて、もうこのまま終点まで行っちゃおうかな、とか思ったりサ。
で、だれかが『チョットあんた、大のオトナがみっともないよ』なんつって注意してくれれば、『ああ、こりゃぁどうも…』なんつって起き上がれるのになぁ、とか思ったりしてるワケさ」


「あー…。なるほどなるほど。
…ところでずいぶん話がリアルですけど、ひょっとして、むかし自分でもそういう体験あったんですか?」


「…んー。
 …まあ、な。」