ーOOO-「おなかいっぱ→い」

 知り合いのヒトの苦労話。
 知人がつとめる小さな会社に新入社員が入った。知人は新入社員の面倒を見る係になった。
 ある日の夜、不意にその新人君が
「なぁーんか、もう、おなかいっぱーい、って言うか―→」
と、言った。
「ソレ、どういう意味?」
「ぶっちゃけ、辞めたいんですけど―→」
 そしてそれっきり、彼は会社に戻ってこなかった。


 そこであわてて、新聞の折り込みチラシに求人広告を出した。
 チラシの入った新聞が配達されるのは日曜日。知り合いのヒトは休日出勤をして、会社の電話番をしていた。
 朝一番、さっそく電話がかかってきた。
「もしもし。こちら、リクルートガテン編集部と申しますが…」
「えっ、…どのようなご用件で?」
「はい。春先などと違いまして、秋口は求人募集をするのは大変難しい季節となっておりまして。新聞の折り込みで求人をなさっても、なかなか応募がないのではないか、と存じまして」
「はあはあ」
「応募が少なければ、面接をしてだれを採用するか選ぶことも出来ません。それから、今の季節に求人をなさる会社の方は、大変お急ぎの事が多いと存じております」
「なるほどなるほど」
「そこで弊社のガテンをおすすめします。求人のチラシと違い、本誌を手に取る方は真剣に仕事を探している方ばかりです。『すぐに電話がかかってきて、就職の応募者も多かった』と、みなさんによろこんでいただいております。本誌の広告をお試しいただけませんでしょうか?」
「…いいえ、結構です」


「朝一番の電話が、ガテンからの営業電話だとは思わなかった。だけどまだチラシに広告を出したばかりだしな…」知人はそんなことを思った。
 だが結局、ガテンが言うように、求人に応募する電話は一本もかかってこなかったのだ、という。