ーOOO-蜻蛉の想い出

 いつも愉快な弊社の昼ご飯。みんなで豪華な粗食を食べながら、わいわいとくだらない話をしていたのだが、弊社のエラいヒトが
「そういえば子供のころ、オレの友達がトンボ捕まえて喰ってた」
とか言うので全員爆笑。
「何すかソレは、青森だとフツー、トンボを食べるんですか?」
「喰うはずないだろよ! ソイツが変だったんだよ! 戦後まもなくのころで物がない時代だったけど、トンボを食べるヤツっつーのは見たことも聞いたこともないねぇ。あとにも先にもアイツだけだったよ」
「食べるって…イナゴの佃煮みたいにですか?」
「いや、生で。アタマからバリバリとよぉ」
「うひゃー…、気色悪いですね…」
「あのころ青森には、うんとでっかいトンボがいたんだよ。胴体の太さがエンピツぐらいあるようなヤツがさぁ。で、それをつかまえて、バリバリッとな」
「デカいトンボを食べてたっていうと、気持ち悪さが増しますね…」
「いや、オレだって見てるだけで気持ち悪かったさ。でもよ、ソイツはさ、ガキの頃からそうやって、ばりばり食べるのがクセになっちゃってたんだなぁ」
「クセっていうと、腹が減ってるから食べるとかじゃなくって、手持ちぶさただから食べるとかそういう感じですか?」
「そうなぁ。たとえばさ、校庭で体育の時間に、待ち時間が退屈だったりするだろ? そういうときにトンボをパッと捕まえてさ、バリバリ食べちゃうわけさ」
「じゃあトンボを捕まえるのも上手かったんでしょうねぇ」
「うん、親指と人差し指を上に向けて伸ばすと、トンボが人差し指につかまるんだな。それを親指と人差し指でパッとつまむわけさ」
「えー!そんなんで捕まるんですかぁ?」
「うん、俺たちがマネしてもそれじゃ捕まえられないんだな。なぜかアイツは指二本で捕まえるのがうまかったよ。トンボとりの名人だったな」
「そこまでして食べるくらいだから、トンボって美味しいんですかね?」
「いやあ、アイツも「うまい」といったことはなかったなぁ。俺達に「おいしいから食べてみろ」みたいな話をしたこともなかったし」
「…じゃあ、なんでトンボ食べてたんですかね?」
「クセだって言うんだよなー」
「はー」