ーOOO-黙って載せた新機能 … PENTAXの一眼レフカメラ「K-x」

 今日は池袋で、ペンタックスの新製品の一眼レフカメラK-x」を使ったブロガー向け写真教室があったのです。
 

 この席上で行われた「K-x」の開発にまつわるお話がおもしろかったので、そちらをレポートしますね。


 どんな商品を作るのか? 新製品の開発に当たって、開発担当さんは頭を悩ませたそうです。
 一眼レフユーザーは多種多様です。
 始めたばかりのエントリーユーザーもいれば、マニア、プロカメラマンとレベルは様々です。手軽さを求める人もいれば、高機能を求める人もいます。それから、女性向けに作るのか? 若者向けに作るのか? ファミリー向けか?
 新製品の開発に当たっては、どんなユーザーに向けて作るのか、ターゲットセグメンテーションが必要です。
 それでいて、一眼レフカメラの市場はそれほど大きくありません。あまり細かく絞り込むと、お客さんの数が少なくなってしまいます。
 悩みに悩んだ開発担当者さんが開発部長に話をしたところ、開発部長はこう言いました。
「ターゲットは『ぜんぶ』や」
 だから、K-xは「小型軽量」なだけではありません。
「高機能とユーザーフレンドリーを両立させつつ、小型軽量化する」というK-xの方向性は、このとき固まりました。

独創的な発想力、実現する技術力

 ところでペンタックスは、国産初の一眼レフカメラを作った会社だって、知ってましたか? 正直ワタシは初耳でした。だって、一眼レフって言ったらあのメーカー、このメーカーあるじゃないですか?
 それからカメラに世界で最初にオートフォーカスをつけたのも、自動露出をつけたのも、ペンタックスさんなのです。
 さらに社名の由来となった「ペンタプリズム」…5角形のプリズムの開発、搭載。
 今では当たり前の装備「クイックリターンミラー」の開発、搭載。
 世界初の機能を搭載できたのは、独創的な発想力と、それを実現する技術力があったからなのですね。
 ユーザーアンケートで「PENTAXってどんなイメージですか?」と訪ねると、圧倒的にダントツで「真面目」という答えが返ってくるそうです。


 さて、今回のK-xの開発では、その発想力と技術力がどう生かされたのでしょうか?
 たとえば開発の目標は「小型軽量」なのですが、しかしソレだけではダメなのです。
 「高機能とユーザーフレンドリーを両立させつつ、小型軽量化する」ということで、あちらを削ったり、こちらを肉厚にしたり…と試行錯誤の繰り返しの中で商品を開発したそうです。
 1000万画素級のAPS-C一眼レフカメラにおいて、今回のK-xは最小サイズです。コンパクトを目指しながらも、以前の機種よりも機能を向上させなければならないので大変なことです。
 ちなみに、PENTAXさんの以前の機種「istD」がとても小さかったそうで、縦横サイズはK-xの方が小さいんだけど厚みはistDのほうが小さくて、容積比だとistDのほうが小さいので、「1000万画素級のAPS-C一眼レフカメラにおいて…」と広告に記載することになってしまったのだとか。細かい文言ですが、生真面目さを感じますよね。ライバルは過去の自社製品だった、というのも面白いですね。
 今回のK-xでは連写スピードが秒4.7コマ。これは同価格帯のエントリー一眼レフの中で最速です。これはシャッター機能の精度向上、内部処理速度の向上と様々な要素が組み合わさって達成された速度です。


 しかし、PENTAXさんは「真面目」だけではありません。
 「ぜんぶ」のお客さんに向けて売るために、今回はカメラに100通りのカラーを用意しました。
 
 本体が20色、グリップが5色。それぞれの組み合わせで、100通りの組み合わせが生まれます。
 もちろん、従来通りの黒だって売っています。K-xならば、どんな人でも自分好みのカラーが選べますよね。

黙って載せた新機能

 新しい発想力は、機能面にも及びます。
 今回新たに搭載されたのが「クロスプロセスモード」なのです。
 ところでクロスプロセスって何でしょう?
 フィルムの現像の時に、ネガフィルムはネガフィルム用の現像液で、ポジフィルムもポジ用の現像液で現像するものです。
 これをあえてネガフィルムの現像の時にあえてポジフィルム用の現像液を使う(あるいはその逆)ことで、写真の色が変になります。
 
 これを「色がころぶ」と呼ぶのだそうですが、この色の転びが面白い効果を生み出します。毎回毎回思ってなかったような色になり、写真に味が出るのです。
 これはフィルムカメラならではの楽しみなのですが、今回のPENTAX K-xでは「クロスプロセスモード」として、この効果を機能として取り入れました。
 さらにK-xのクロスプロセスモードの面白い点は、あえて機能を「オン・オフ」だけにしぼり、撮影した写真が毎回違う「味」になるようにパラメーターを毎回乱数で決定している、という点です。
 
 このクロスプロセスモードは連写や動画撮影の時にもオンにできます。同じ人物・場所を撮影する時に、クロスプロセスモードで連写撮影すると、全ての写真が違った色にころび、面白い味がでます。
 


 開発担当者さんは、こう語ります。
「こんなデジカメはいままでになかったです。だって、物をありのままにキチンと撮るのがカメラですから。それが、撮るたびに毎回色が違っちゃうワケですから。
 『もしもこの機能でお客様の思い出の写真が台無しになってしまったら、どうするんだ?』
とか、社内で関係者に納得してもらうのが難しいと思いましたので、この機能は上司にだまって開発して、載せちゃいました。
 発表したとき、上司はあきれてましたね。
 自分としては、みんなに使ってもらえる面白い機能だと思ってつけたんですけど、たくさんの人に認めてもらえるかどうかはまだわからないですね。」

発想力と技術力

 で、思うんですけど。
 おそらく、カメラにはじめてAFやAEを載せたときも、ペンタックスさんの社内では論議があったと思うんですよ。
「物をありのままにキチンと撮るカメラが、自動でピントをあわせるなんて…撮りたい物はお客様がきめることだ」とか。
「ピントが合わなくてお客様の写真が台無しになったらどうするんだ」とか。
 だけど、一つ一つの問題にキチンと向き合っていくうちに、ワタシのような初心者にはそういうネガはほとんど感じられなくなっている。そしていまではAF、AEはどんなカメラでも標準で搭載している機能ですよね。
 ペンタックスさんはこれからもそういうふうに、発想力と技術力で、より使いやすいカメラを産み出したり、全く新しい機能を搭載したりしながら、初心者にも上級者にも納得してもらえるようなカメラを作り出していくのではないでしょうか。