ーOOO-石焼き芋鍋のある生活
自宅でいつでも手軽に石焼き芋が作れる「石焼き芋鍋」というのがある。
これさえあれば、ほかほかでぽくぽくの石焼き芋が、自宅で! いつでも! 手軽に! 夢の石焼き芋ライフがそこに広がるのだった。
んで、去年の暮れに雀の涙ほどのボーナスが出たときに、鼻息を荒くして電車に乗って、はるばる遠くの東急ハンズに買いに行った。
だが、あこがれの石焼き芋鍋のお値段なんと4900円。
年に何回使うのか?ってか、買っても飽きちゃうんじゃないの?とか考えると、コストパフォーマンスが悪すぎる。
衝動買いで失敗やら散財やらをやらかしちゃいがちなワタシではあるのだが、このときはさすがに冷静になって、すごすごと帰ったのだった。
あるときテレビをみていたら「おうちで簡単にできる石焼き芋のやりかた」が紹介されていた。
その方法は「大きめのヤカンに熱帯魚用などの砂利を入れて、その中で焼く」というものだった。
つまり、ふたの出来るナベを使って、とにかく小石を敷いて、それでいいんだなっ?
で、砂利を買いに近所のホームセンターに行ったら、そこに処分品の石焼き芋鍋が売っていたのだった。お値段なんと1500円。幸せの青い鳥は、近所のホームセンターにあった!
うれしくて衝動買いですよ。
あこがれの石焼き芋鍋は、なんと説明したら良いだろう?
深い土鍋で、口の部分がすぼまっていて、ちょっとツボっぽい感じだ。テレビ番組で「ヤカンを使うと良い」と言っていたのがうなずける形だ。
そこに、鍋に付いてきたほんの少しの小石を、申し訳程度にパラパラと撒く。あんまり少なかったので、別売りの「石焼き芋鍋用・補充用小石480円」というのを買いたしてしまった。なーんか、してやられた感が否めない。
そして夜。10時ごろになると、ちょっと小腹が空いてくる。
さあ、焼きたてのほくほくの石焼き芋を食べようじゃないか!
と、ここからが長い。
まずおもむろに石焼き芋鍋を火にかけて、鍋それ自体を暖めてやる必要がある。これが中火で5分だ。
そこに芋を投入してやる。
フタをしてじっくり焼く。これが15分くらい。
もちろん、こげないようにマメにひっくり返してやる必要がある。
そんでもって、火を弱火にして、20分くらい焼くのだ。
米を炊くわけじゃないけど、初めチョロチョロ、中パッパなのだ。
で、芋を焼いてる鍋には水は入れてない。土鍋に石を入れて空焼きしている状態なわけだ。
だから、台所にはちょっと独特の焦げ臭い匂いが漂う。
さらに、不慣れだからテキメンに芋を焦がす。間違いない。
土の焦げた匂いと、芋の焦げた匂いで、悲しい気持ちになる。
けれどその匂いの中に、かすかに甘い芋の香りが感じられてくるはずだ。
芋に串を通す。プスッとでもなく、グサッとでもなく、スルッと串が通ったなら、いい塩梅だ。
ここで落ち着いて、火を止めて、鍋の中で5分くらい寝かせてやる。
ゆっくり鍋の中で冷めていく中で、甘味が増しているらしいのだ。
さて、食べようと思ってから、かれこれ50分くらいたっただろうか。時計はもうすぐ11時だ。
ハラヘリ度合いはマックスに達している。
わくわくしながら、石焼き芋をパクリ!
まあ、皮の焦げ臭いことな! うーん、焼きすぎたか?
でもそういう部分をよけて身を食べると、あるときはポクポクとした芋が、うまく焼けるとねっとりとした感じで食べられるのだ。芋がねっとりと焼けると甘さが濃いのだが、ポクポク焼けたときも栗みたいな感じなのでワタシは好きだ。
食べると満腹になって、身体があたたまる感じがする。
翌日のお通じも大変よろしい。
芋もけっこう安いし、菓子パンより安くて腹持ちが良くて栄養価も高い。
いいことづくめだ。
食べたいときに、すぐに食べられないじれったさ。
思ったように上手に焼けないじれったさ。
石焼き芋鍋のある生活は、そういうじれったさが楽しみになる側面があり、値段分以上に楽しくて豊かなモノなのであった。