柔道部の思い出 ─◯◯◯-

日曜の夜は友人と飲む。
いつものようにとりとめのない話は
流れ流れて
中学生のころの柔道部時代の思い出話に。

私は柔道の得意技はなかったのだけれど
締めと押さえ込みには強かった。

柔道で首を締められると
すげー苦しくて息が止まりそうになるんだけど
でもホントに息が止まったわけではなくて
落ち着いて呼吸すると呼吸できちゃうので
  「うわー苦しい!効いてる効いてる!
   今にもギブアップしちゃいそう!」
っていうフリをして時間を稼ぐ。
締めてる相手がすっかりくたびれ果てて手をゆるめたところで
こちらが逆に押さえ込むというのが
勝ちパターンだった。
セコい。

あと、押さえ込まれた時に
当時の私は体が柔らかかったので
がっちりとおさえこまれて両肩が畳についているにもかかわらず
ぐるっと腰でひねった下半身は両膝が畳に付いた。
 (↑コレ、文章で伝わりますか?)
一見、押さえ込みが解けたように見える。
審判から「待て」がかかって
もう一度仕切り直しになるのだった。
押さえ込んでいた相手が疲れて息が上がっているところで
こちらが逆に押さえ込むというのが
勝ちパターンだった。
これまたセコい。

得意技を持たずに
勝ったり逃げ切ったりしていたワタクシなのだった。



三年生が引退した夏の、柔道部の特訓。
部長になったばかりの某君と、副部長の某君が
用事があって二人とも2日続けて休んでしまった。
こうなると、柔軟体操などのときに
「1、2、3、4」の声だしをする奴がいない。
どうする? 誰がやる? 全員で顔を見合わせる。
一番強かったO君が、
「おめぇしかいねえだろ?」
と、私を指さした。
え、オレ?
じゃー、体操やりまーす。
1、2、3、4。

なんかその一件以来、
いつのまにかうやむやに
オイラが柔道部の副部長になっていました。



春が来て、新一年生の部活見学。
見学に来た新入生にいきなり柔道着を着せて、
「ちょっとこうして、こうやると、
 な、押さえ込みだ。
 ん、君はウマイねどうも。
 じゃ、もっとすごいやつ。
 ここで、こうしてこうやると押さえ込みが返せるんだ。
 やってみ。
 うわー、オレの押さえ込みが返されちゃったー。
 新入生なのにすごいなー。
 センスあるよ君」
とかしらじらしくホメまくった。
笑いを取りながら
新入生を釣り上げまくった。



友人いわく
「あの時のおまえの後輩との接し方、というか
 芸風みたいなものは
 どうも俺には出来ないんだよな。
 俺は後輩を力とか恐怖で支配する感じ、かな。
 だから会社に新人が入って来た時に
 教育係になっちゃうとうまくいかないんだよな。
 おまえ、今でもそういうのウマくね?」
 
あー、そうねー。
会社に新人が入ると
「君はセンスあるよ! オレより上手だ!」
とか言ってるかも。
中学のころと変わらないのかオレ。

「だからそういうのが芸風っていうか
 自分らしさだから
 無理に変わろうとしたり変えようとしたり
 しなくていいんじゃない?」

んじゃー、おまえは
力と恐怖で会社の新人を抑え続ければいいんじゃ?

「あー、ねぇ?」