安いメロン ─◯◯◯-

むかし、2度目の交通事故に遭った友人を
私はしょっちゅうお見舞いしていた。
病院は帰り道の途中にあったし、
何しろちょっと私が顔を見せれば
そいつはパアッと笑顔を見せるのだ。
お安い御用だ。

友人は最初の事故で腰を悪くしていたのに
今度の事故でさらに腰が悪くなってしまっていて、
それなりに入院は長引いた。


ある日のこと、
駅前にメロン売りの軽トラックが停まっていた。
2個で500円、とかいうヤツだ。
味見させてもらえるメロンはとても美味しいくせに
買って帰るとちっとも甘くない、
文句を言いに行くと軽トラックはドロン…
みたいなイメージそのままの軽トラックだった。
「ちょっと味見をしませんか?」
というのをさえぎって、
「この安いマスクメロン、一個だけちょうだい」
と私は言った。

男同士だから、
花束をあげたりもらったりしてもしょうがない。
だから、花束を飾るようなつもりで
殺風景なベッドのそばに
メロンをドーンと置いておいたら良いではないか!
と提案したら、友人はウケまくっていた。
250円で、ちっとも甘くないはずだが、
見た目はなかなかしっかりしていて
安いとはいえ、マスクメロンはそれなりの存在感があった。

数日後、また友人をお見舞いに行ったら
メロンからはほのかに甘い香りが漂っていた。
家にメロンがあっても気づかないだろうけれど、
病室の中では控えめでいて品のある甘い香りを漂わせていた。

「いやあ、
 回りの患者さんにお見舞いが来るのを見ていても、
 メロン持ってくるヤツはいないね。
 あと、看護婦さんが時々
 『私にもメロンお裾わけしてよぉ~』
 とか言うし。
 食べてもちっとも美味しくないはずなんだけど、
 250円だって分かっているけど、
 メロンがあるだけで何か楽しいね。
 花束より全然イイね!」

いたくお気に入りのご様子だった。

さらに数日後。
メロンからの甘い香りはいよいよ強くなっていた。
なんというか、
病院の4人部屋の入り口に立つと
メロンの香りが漂ってくるような感じ、か?
まさかメロンの香りで、お腹がすくとは思わなかった。

そして、友人はこういった。

「よくわかんないけど、
 すごく熟してきて美味しそうだから
 オレ、メロン食べちゃいたかったんだけど、
 オマエがお見舞いに来たら一緒に食べようかと思って、
 我慢してたんだ」

ということで、
さあメロンを切ろうと手に取った。


メロンは腐っていた。