ーOOO-「犬」

 会社のおじさんが、地元の居酒屋で飲んでた時のこと。
 おじさんは陽気で話がおもしろく、飲んでいて楽しいヒト。居酒屋でしか会わない飲み友達が何人もいるのだとか。
 で、その日も居酒屋でバカ話をして、みんなをどっかんどっかん笑わせまくった。と、飲み友達の一人が
「そーだ! 前々からアンタにあげようと思っていたモノがあるんだよ!
 すごいエロビデオがあるんだよ! どうだいアンタも嫌いじゃないだろ?
 持って来てやるから、ぜひ見てよ!」
と、言った。おじさんが「おお、いいねぇいいねぇ、じゃー、今度持って来てチョーダイよ」と、気軽に返事をしたら、
「いや、また今度ったって、アンタにいつ会えるかわかんないから、今すぐ取ってくる!」
と言って、「いやいやそんな悪いから、今度でいいからさ」と止めるのも聞かずに、その飲み友達のヒトはわざわざタクシーを飛ばして家に帰り、エロビデオを持って来てくれたのだそうな。
 しかも10本も。
 酒の席のバカ話だから「ちょーだいちょーだい」と気軽に言ったものの、ホントに持って来られちゃうと引いちゃうワケで。しかも10本だなんて、バッカじゃねえの? と思ったものの、わざわざタクシーを飛ばして持ってきてもらっちゃうと「いらないよ」とも言えなくて、ありがたく頂戴してきたのだそうな。
 んで、深夜に家に帰ってから。
 まあ、もらっちゃったんだし、じゃあちょっとだけ見てみようかなぁ… と思って、テープを取り出してみた。かなり古びたテープの背中にはラベルが貼ってあり、手書きで「ヤリ高」とか書いてあった。
「ヤリ高」って…女子高生モノかなぁ? こんな感じで、それぞれのテープには略語でタイトルというか内容が書かれていた。
「外」…外人モノかなぁ?
「犬」…犬?
 犬って!?
 いや、まさか、そんなバカな… だがしかし…
 何がどうなっているのかは、取りあえず見て内容を確認するしかない。
 で、デッキにセットして、再生した。
 バリバリガガガ、みたいな音がしたらしい。イヤな予感がしたので、すぐ止めて取り出そうとしたら、ウイーンガチャウイーンガチャとテープが引っ絡まって取れなくなってしまったのだそうな。
 どうしよう、修理に出そうかなぁ、でも修理に出して「犬」って書かれたテープが出て来たら恥ずかしいなぁ、でもこのまま黙って放置して家族に「犬」って書かれたテープを見つけられたら、家にいられなくなっちゃうよ…
 そこで、取り出しボタンを何度も押して、押したり引いたりひねったり、深夜に一人で悪戦苦闘。やっとのことでそのテープを取り出したのだそうな。
 ふう、やれやれ。このテープはグチャグチャになったけど、ホントに「犬」なんか見たかったワケじゃないしなぁ。1本ダメでもまだ9本もあるぞ。次は何を見ようかなぁ…
 と、その時
「…夜中にゴソゴソ何をしてるの?」
と、ヨメさんが目を覚ましてしまった。んで、白状したら、
「バカなもの見てるんじゃないわよ! いい年して!」
と、後ろからぶっぱたかれ、
「こんなもの捨てちゃいなさい!」
と、全部没収されたのだそうな。