ーOOO-「エンディングまで、泣くんじゃない」
※ かなり気をつけて書いたつもりだけれど、
ネタばれを若干含んでいるかも
MOTHER3の発売から、約1カ月半。
発売前日にゲームを手に入れた私はまだ、MOTHER3をクリアしないままでいた。
電車の中でDSを取り出し、経験値を稼いだだけで終わらせてみたり。
あるいは眠れない夜に、眠気がやってくるまでの友として。
ゆっくりゆっくりと、しかし確実にゲームを進めてきた。
時に楽しく、時にせつなく。
この物語は私の想像を少しずつ裏切り続けた。この先、この物語はどうなるんだろう、早く先に進みたい。
だがその一方で、「そろそろ物語の終わりが近づいてきている」という予感は、ゲームを進める気持ちを鈍らせた。
同じ敵を延々と倒し、経験値を稼ぎ続けてみたり。
部屋のすみずみをしつこく調べてみたり。
(はい/いいえ)ときたら、とりあえず「いいえ」を選んでみたり。
違うセリフを言わなくなるまで、同じ村人に何度も話しかけてみたり。
とにかくイベントのやり残しがないように、ゆっくりゆっくりとゲームを進めてきた。
あまりにもゆっくりとゲームを進めてしまったから、私はゲームの序盤の展開を忘れかけている。
私と同じころにMOTHER3をはじめた友人がいるのだが、その友人はすでに3周目のエンディングの手前だという。彼は私より深くゲームを楽しんでいる。実際、その友人からヒントをもらったことがあるし。
ゲームを終わらせるのがもったいないなら、エンディングを迎えたあとで、もう一度ゲームをやり直せばいいじゃないか。それに、そうすればMOTHER3を何度も楽しめるじゃないか、と思う。
けれど、手探りのままゲームを進めている時のドキドキ感は、一度目のプレイの時だけの感覚だ。
「次にこんなことが起こるんじゃないか?」と想像する心。そして、それが裏切られる気持ち。
私は、次に何が起こるか分からないドキドキを大事にしたい。
それに、一度目にこれだけみっちり隅々まで遊んでしまったので、二度目のプレイは考えられない。エンディングを見てしまったら、もう遊ぶことはないんじゃないか。そう思う。
まだゲームを終わらせたくない… と願いながらも、少しずつゲームを進めているからには、物語はゆっくりと終わりに近づいて行く。
エンディングまで、あとどのくらいだろう?
小説と違って、ゲームは「残り何ページ」が分かる訳ではない。
しかし、どうやら物語は終わりに近づきつつあるらしい。
苦い味を伴いながら、少しずつ謎がほどけていく。面白おかしいだけのゲームではなくて、「奇妙で、そしてせつない」物語なのだった。
やがてあたりに静かな景色が広がり、音楽は荘厳な雰囲気を漂わせはじめた。最後の戦いが迫っている気配を感じる。
やはりゲームは小説とは違うのだ。
あと少し前に進めば、何かが起こる。
けれど、ゲームを終わらせたくない気持ちが、先に進むことを躊躇させる。
その場でちょっと経験値を稼いだり。後戻りしてみたり。セーブしていったん電源を切ったり。
でもこの先、どうなってるんだろう? やっぱり気になる。
「最後の戦いは、もうちょっとだけ先なんじゃないか?」
そう思い、会社の帰り道の電車の中でDSを取り出し、ゲームを進めてみた。
もうちょっと、もうちょっと…
と、「最後の敵」があらわれた。
イベントから、戦闘シーンへと突入。
どうしよう? 今はそんなつもりじゃなかった。
今はDSを閉じて、家に帰る?
見なかったことにして、いったん電源を切る?
しかし、「今」が最後の戦いを向かえるにふさわしい瞬間であるような、そんな気もした。
一度きりの「今」を、大切にしたかった。
今は帰り道の電車の中。
まさか、こんなところで最後の戦いを迎えるとは思わなかった。
自分が降りるべき駅は、もう過ぎた。
やや空いてきた電車の中、空いてきた座席の一つに腰掛けると、改めてゲームに集中する。
最後の敵の強さ。
打撃のその痛みは、パラメーターでは表せない痛みを伴った。
勝ったのだろうか?
倒したのだろうか?
私は、負けた訳でも倒された訳でもなかった。
ただ、最後の戦いは、これで終わった。
最後の戦いを終えた主人公は、最後に一つ、やらなければならないことがあった。
それは大きな、そして大事な、覚悟の選択だった。
(はい/いいえ)
私はいつものように、つい、「いいえ」を選んでしまった。
あっ?
ああああ?
あ─────っ!
やっちゃったー。
やーっちゃったよー。
家に引き返す電車の中の、気分の重いことったら。
はー。
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