ーOOO-駅前広場の演奏だから

 去年に引き続いて、駅前のジャズコンサートを聞きにきている。
 これは、駅前広場に面したスターバックスの店先で、地元の小学校・中学校の吹奏楽部がジャズの演奏会をやる、というイベントだ。去年の第一回目は中学校だけだったんだけど、今年は小学校と共催ということになったようで、にぎやか度がアップ。
 ということで、早めにスタバにいって、今回は店の中から演奏を拝聴することに。
 去年は路上で正面から聞いていたんだけど、一時間ぐらい立ちっぱなしで演奏を聞くというのはけっこうキツイ。あとステージ最前列というか演奏者の前は、ママさんたちがカメラの三脚を最大限の高さに立てて撮影している。ので、ちょっと後ろにいても演奏の様子はあんまり見えなかったのだった。
 ガラス張りの店内から正面を見れば、開始を待つお客さんの顔、顔、顔。
 演奏はスタバの店の前の路上でやるので、舞台袖が存在しない。店の横をふと見れば、ぴりぴりと演奏の準備の緊張感をみなぎらせる中学生の顔が見えたりなんかして、こちらを見ていても非常に飽きない。
 お巡りさんだけじゃなくてボランティアのヒトが交通整理をしているなぁ、とか駅員さんが様子を見にきているなぁ、とか。そういった非日常的な何かを見ているだけで、祭りが始まるような、そわそわしたような感じで、なんだかわくわくしてくる。
 とか書いてたら、小学生さんたちの音出し始まったー。
 うはー。ワクワクすんなぁ。
 演奏前にはエラいヒト達のごあいさつ。それも駅前商店街のヒトとか、入れ替わり立ち代わり。長くてうっとおしくて、はやく演奏を聞かせろ! という感じ。
 けれど、最後の校長先生の話は、自慢の子供たちをお客さんに紹介するような、晴れやかでほほえましいものだった。
 そして演奏が始まった。
 子供たちはスタバを背にして駅前に向かって演奏をするので、店内の私達には演奏者の背中しか見えないワケなのだが。しかし指揮者はこちらに向かって振るワケなので、これはこれで見ものであり、ある意味、特等席と言ってもよいだろう。
 そして演奏はダイナミックに、もにょんもにょんと音は遊ぶ。がんばれがんばれ!
 こーいう手に汗を握りながら演奏を聞く感じって、なかなか面白いものだ。
 思い返して見ると、学校の文化祭なんかで、吹奏楽部の演奏会って何度もあったはずなんだけど、こんなに面白く聞けなかったなぁ。
 どうしてなんだろう?
 自分が音楽のイベントに首を突っ込んじゃったから、とか、自分がオッサンになったから父親的な目線で子供の成長を見守るような感じで楽しんでいるから、とか「自分の変化が理由だ」とか言っちゃうと、ソレはそうなんだけど、それだけだとつまんないので、もちょっと考察。
 文化祭と今回のコレと、何が違うって「場」が違うんだよね。
 文化祭だと、授業の一環として強制的に体育館に集められて、時間を過ごすとなんとなく終わってしまう。
 駅前で発表することによって、聞きたいヒトだけが集まってきて演奏を楽しみにしている感じと、多くのお客さんたちに囲まれて必死で演奏する方の一生懸命さと、そういう場の醸し出す感じが良いのではないかな、と思った。
 そして30分ほど演奏して、小学生さんたちの演奏が終わった。
 入れ替わりで中学生さんたちの準備。
 そのとき、雲に切れ間が見えてきて、駅前にパーッと光が差してきた。
 金管楽器がキラキラと輝く。
 ステージではありえない光景。ええのう。
 ふと横を見れば、ハケていった小学生さんたちが、ほっとしたような、何かをやり遂げた達成感のような、そういった喜びを全身で表していたりなんかして、かわゆい。
 そして中学生さんの演奏開始。
 ビッとそろっていて、うまい。危なげがない。
 さっきの手に汗を握るようなもにょもにょとした演奏も好きだけれど、うまい演奏に乗せられて、心を音にゆだねるような安心感というのもすばらしい。
 去年は背中しか見なかった指揮者の先生を、今年は正面から拝見。実にたのしそう。あー、あんなに笑顔だったんだ?
 指揮者に乗せられるように、うきうきとした演奏。
 そして笑顔のお客さんたちの顔、顔、顔。
 ほんのすこしの隙間から演奏する姿を眺めようと、首をめいっぱい伸ばしたり、右に左に首を揺らして隙間からのぞいてみたり。
 泣き出した子供の口を押さえて、演奏に聞き入るお母さん。あるいは、演奏に聞き入るお父さんと、音量にびっくりして耳に指を突っ込む男の子。
 駅前広場での演奏だから、クラクションの音や電車の音がしたりする。コンサートホールのようにはいかない。
 けれど、コンサートホールと違って、ダラダラと聞いていてもいい感じがある。
 勝手に手拍子が起こったり。隣のヒトとおしゃべりしながら聞いたり。
 ボクはこうして、2杯目のアイスカフェアメリカーナのグランデとチョコチップクッキーをつまんだりしながら演奏を聞いているし。
 演奏ももちろん良いのだけれど、こういうゆるーい感じ、この「場」が好きだから、今年もまたここにやってきてしまった…。そんな気がする。