ーOOO-それでもボクはやってない
「それでもボクはやってない」を、こないだ見てきましたー。
痴漢冤罪事件を取り扱った作品ということで、ドンパチがあるわけじゃなし。息苦しくて、見ていてスカッとするシーンがあるわけではないけれど。でもよろしかったらどうぞ。
ノンフィクションやドキュメンタリーの作品ではないけれど、見せたいテーマを描ききるためのフィクションをキッチリと作りあげることで、ノンフィクション以上の効果が上がっていると感じました。
中だるみが無かったので、見ていて一度も時間が気にならなかったです。っていうか2時間23分のやや長い映画だったけれど、「そんなに長い映画だったのか?」と今びっくりしています。
パンフレットは買っておくべき
TBSラジオ土曜日朝の「目のツケドコロ」という番組では、公開初日にこの映画を取りあげていたので「おっ、流石!」とか思いました。
この番組は、トップニュースではないし最新のニュースではないけれど、ぜひコレについて取りあげたい…という「テーマに対する意志」が毎回あって、その目の付け所がナーンか良い感じなんですよね。
で、その番組でこんなことを言ってました。
それにしても、「新入りの容疑者にお節介を焼く先輩」という設定で、無理なく自然に、司法制度の仕組みを我々観客に説明してくれる辺りは、周防監督の上手いところだ。
映画のパンフレットも、映画の解説でありながら、各ページの見出しは「ストーリー」「キャスト」に続いて、「裁判の流れ」「留置場での1日」「用語解説」「弁護士メモ」「刑事裁判トリビア」「おすすめ本」「参考ホームページリスト」など、今までで1番分かりやすい“裁判の教科書”という感じがする。
そういうコトでパンフレットを買って読んだんですが、読みやすいのに読みごたえがあるような、そういう感じが非常に良かったです。
パンフレット冒頭の周防監督のコメントやインタビューは、映画を見た後だとスッと頭に入ってきます。監督の語り口が静かでいてアツいので、映画を見る方はぜひパンフレットもお求めになると良いのではないかなー、と思いました。
以下、ネタバレありますです。
ヒトは一人で生きてはいけない
去年の暮れに、はじめて劇場でこの映画の予告編を見たときにいちばん印象的だったのは、もたいまさこの演じる母親の姿だったんですよね。映っていたのはほんの一瞬だったんだけど、グワッと胸を捕まれて、見ていて泣くかと思った。
今回本編を見ていても、もたいまさこが出てくるたびにいちいち泣きそうになって困った。
バカな息子の無実を信じて、汗をかいて、身体を張って。
親って、ありがたいなぁ。親を泣かせたり心配かけたりしちゃいけないなぁ、とつくづく思った。
でも今回の場合は冤罪事件だから、迷惑をかけたくてかけたワケじゃない、心配させたかったワケじゃない。なのに迷惑をかけてしまった。そういうコトを考えると、また泣けてしまうのだった。
また、主人公の友達も大事な存在だった。
留置場の中にいる友人のために、走り回って、笑って、泣いてくれるヒト。
腹が立ったときに、「ふざけんじゃねぇよ! バカヤロー!」と、一緒に怒ってくれる人。
主人公は無実の罪であんなヒドい目に遭わされて、普通はメゲたり心が折れたりしてしまうと思うんだけど。
でも、親や友達が自分を信じて支えてくれるから頑張れる。「それでもボクはやってない」と真っ直ぐ立っていられる。
裁判をテーマにした映画なのだけれど、その部分に対する強いメッセージの他に、「ヒトは一人で生きてはいけない、信じて支えてくれるヒトが必要なんだ」そんなことを感じた。
で。ここからは感想ではなくて、映画を見て妄想をふくらませたこと。
見てない人は以下読まないこと。
この映画には、鈴木蘭々が演じる主人公の元カノが出てくる。コレ、端役っぽい扱いで、あんまり重要な役ではないのだけど。
最初は「元カレが捕まった」と聞いて、傍聴席の穴埋め役で裁判の傍聴に来ただけの彼女。心の中では「痴漢で捕まるなんて…」「なんてヘンタイ…」「やっぱり別れてよかった。だいたいあの人は…」とか思っていたはず。
で、それがなんとなく、毎回傍聴に来ることになる。
仮釈放の時に、みんなで一緒に居酒屋で乾杯をすることに。このとき彼女は、彼の気持ちが他の人より良くわかったりしている。だって、彼の元カノなのだから。彼は自分が愛した人だったのだから。
そして裁判で彼の母親が泣き崩れたとき、彼女は母親を抱き留めて、支えてやる。
最初の裁判では、彼女と母親は離れたところに座っていたはずだった。それが裁判が進むにつれて、だんだん近づいていって、この裁判の時には母親のすぐ隣に座っていた。だから彼女は母親を抱き留められたのだ。
これは、裁判が進むにつれて、彼女と母親の心の距離が近くなったことを示している。
それはつまり、彼女と主人公の心の距離が近づいていったと言うことで。
あのシーンで彼女が泣き崩れる母親を支えたということ。それは、彼女が主人公をずっと支えていく決意をしたという心の現われではないか、と思った。
そんな感じでワタシは些細な部分に無理やり小さな光を見いだしてみた。
だって、そうでも思わないと、ちょっとあのシーンは見ていてツラすぎるもの。