ーOOO-冬の日のネコは、つまさき立ちで歩く
真冬になりましたなぁ。
あんまり寒いから、つまさき立ちでチョンチョンと歩くことがあるでしょう? 背中を丸めて肩をすぼめて、「あー寒む寒む」かなんか言いながら、手をこすり合わせたりなんかして。
ヒトに限らず、ネコもそんな感じあるよねぇ?
冬の日のネコは、その小さな肉球のカカトの部分がなるべくアスファルトに触らないように、背中を丸める …というか、やや猫背気味に、チョンチョンと足早に駆けて行く。
ふだんのネコの、俊敏な物音ひとつ立てないような歩き方とは程遠い感じ。
考えてみればヤツらはハダシなのだ。
真冬のアスファルトの上を、ハダシで! 想像するだけでこちらも寒くなる。
冬の日のネコがモコモコとまんまるくなっているのは、冬毛が生えているせいもあるだろうけど、実はヤツらは鳥肌を立てていて、そのせいで毛が逆立っているんじゃないだろうか。そんな気がした。
あるとき私が車で出掛けて、買い物から帰ってきたのは真夜中だった。
荷物を助手席から降ろし、家に運び込む。
残りの荷物をトランクから降ろそうと、車の後ろに回った。
そこにネコがいた。
茶のぶちネコが、リアバンパーの近くで丸くなっている。
エンジンを切ったばかりだったから、リアバンパーの下の方にあるマフラーはまだ暖かい。その温もりを目ざとく見つけてやってきたのに違いない。
そろそろっと歩いて、ネコに近寄った。
ネコは案外ふてぶてしく、私のことなど意に介さないという表情。逃げる気配もない。
しゃがみこんで、なでてやった。ゴワゴワした毛の手触り。ゴツゴツしていて筋肉質な身体。その感じは決してイヤな感じではなく、私はネコの身体を上から下へずっとなでていた。
ほんの毛先の部分をなでるようにすると冷たいのだが、でもちょっと奥はネコの体温でじんわりと暖かい。毛布やぬいぐるみなんかと全然違う。なんだかホッとする感覚。
冬の真夜中に私は一人、そっとそっとネコをなでていた。
ノドの下をなでたらネコは嫌がって、身をよじって私の手から逃れると、ゴリゴリッと後ろ足で自分のノドを掻いた。「オレのノドにさわんじゃねぇよ、ヘタクソ」と言われた気がした。
けれどそれ以上嫌がる様子もなく、ネコはまた、私の足元でじっと丸まった。私はネコのノドには触らないようにしながら、ずっと身体をなでていた。
モゴモゴ、モシャッモシャッ、とネコが何かを食べているような音が聞こえた。
んー? お前、何かを食べてるの? 足元に何か食べるものでも落ちてたか?
そんなことを考えながらネコの身体をなでていたら、
「ブチッ、ブチッ」
と音がした。
ネコは、足元の冬枯れした茶色い芝生にかじりついていたのだった。
あれっ、お前、そんなにお腹がすいてるの…?
つい身体をなでる手が止まったら、ネコは立ち上がってツルリと私の手を抜けていった。
庭先で不意に立ち止まって振り向き、キロリとこちらを見た。
そしてネコは、スーッと冬の夜の闇に消えていった。