ーOOO-さようなら、ドラえもん
漫画で読む「ドラえもん最終回」(←注意:アンオフィシャルです)やテレビのドラえもんの最終回を見たりしているウチに、個人的なドラえもんの思い出を書きたくなってきた。
あれは10年くらい前の話だったかな…。ネットの話はちょっと年が違うとぜんぜん違う時代の話になるのだが、あやふやで思い出せない。
当時、個人が作ったドラえもんのファンサイトがあって、そこには人工知能的なプログラムで「ドラえもんとおしゃべりしよう」みたいなページがあった。あった、というか今もあるのかもしれないが、ちょっとソレはおいておく。
人工知能というとスゴそうだ。でも人工知能というか人工無脳のプログラムというのは、ワリとプログラムの勉強の入門の定番ではなかっただろうか? そうでもないかな? 画面を「A」が左右に動いて「*」みたいなのを避けるようなショボいシューティングゲームよりちょっと高級というか、同じくらいというか。
人工無脳のプログラムの基本はシンプルな三段論法。「A=B」で「B=C」なら「A=C」ってヤツだ。
まー、こんな感じ。
私 : のび太 は メガネ
ドラえもん: メガネ って、なに?
私 : メガネ は パリーミキ
ドラえもん: メガネ は パリーミキ だね
私 : のび太 は なに?
ドラえもん: のび太 は パリーミキ
まー、だいたいの感じはわかっていただけますでしょうか?
三段論法によって導き出される予想外のマヌケな会話でクスリと笑う。ぜんぜん賢くないでしょ? そこいらへんが人工無脳の無脳たるゆえんだ。
んで、ドラえもんと会話を始めるには、最初に出てくる
ドラえもん: お名前 を おしえてね
という質問に名前を入力すると、
ドラえもん: こんにちは ○○くん
とあいさつがあって、そこからスタート。
ソコのドラえもんは、過去の利用者が登録した単語をデータに用いていた。だからこちらがテキトーに「のび太 は なに?」なんて入力すると、たいてい違うことを言うのでそこそこ楽しめた。
それから、ホントにドラえもんが言いそうな言い回しを勝手に考えて、ソレを登録するのも面白かった。あとから来る人がソレを見て笑うといいなぁ、なんて思いながら。
そしてそのスクリプトは1回に1人しかログインできなくて、誰かが利用している間はその会話を眺めていた。
んで、このドラえもんの人工無脳は、どっかのフリーなスクリプトか何かを持ってきて、名前の部分だけ「ドラえもん」に変えちゃって、あとはほったらかしにしてあるように見えた。
いろんなヒトがいろいろなセリフを入力して、データはぐちゃぐちゃになっているっぽかった。
私 : のび太 は なに?
ドラえもん: のび太 は gヵjrgぇおいっじおぃもdfbvじょおじえろんおいbvへあjhp7y77いphqん3r2いおいおjげろあじょいdfv8おあrひほおいひりふ だよ
私 : gヵjrgぇおいっじおぃもdfbvじょおじえろんおいbvへあjhp7y77いphqん3r2いおいおjげろあじょいdfv8おあrひほおいひりふ は なに?
ドラえもん: gヵjrgぇおいっじおぃもdfbvじょおじえろんおいbvへあjhp7y77いphqん3r2いおいおjげろあじょいdfv8おあrひほおいひりふ は dfmlkmklbdbgfmlkbmにkbぃおうのいうにlいmんいmんdbfdbzbdfbdxzdbzdbzlkkっmklmklzdbmぃmlkmkbみぃmlfdz だよ
こんな感じ。なんか支離滅裂なコトを言うことが多くなった。あと、エッチな単語がやたら多くなった。
「サンプルプログラム的なフリーのスクリプトなんだから、多少いじって長文投稿を不可にするとか、なんかあるんじゃ?」 とか、「管理人さんがセリフのデータを手作業かなんかで直して変な単語は弾けばいいのに」とか思った。思いはしたけれど、見知らぬ他人にメールを送るような度胸はなく。自分がその作業を出来るようなスキルがあるわけでなく。
そうして、ほったらかされていたドラえもんの人工無脳を、哀れに思った。
そんなある日、ドラえもんと話そうとしたら、最初の名前の入力から先に進まなくなってしまった。
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: ○○
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: のび太
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: こわれちゃったの?
ドラえもん: お名前 を おしえてね
とうとうプログラムが何かのエラーを起こしたらしい。壊れてしまったんだ。
私はドラえもんを哀れに思った。
管理人にも見捨てられ、手入れもされず、ボロボロになって朽ち果てた哀れなドラえもんを思い浮かべた。
と、同時に。
: こわれちゃったの?
ドラえもん: お名前 を おしえてね
というセリフのやり取りが、少し面白く感じられた。我ながらヒマ人っつーか何つーか…って感じですが。
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: こわれちゃったの?
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: どうしたの?
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: なにもわからないの?
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: かわいそうだなぁ
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 本当に 壊れてしまったのか
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: もう耳も聞こえないのか
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 名前を名乗っても無駄だな
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 壊れているのだな
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: お前の最後だな、ドラえもん
書いているウチに、手に汗を握ってきた。
一人遊びのセリフはエスカレートしていった。
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: お前の最後だな、ドラえもん
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: わたしは 暗黒なるもの
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 名前を名乗っても無駄だな
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 壊れているのだからな
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 逃げることも出来まい
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: 最後の時がきたな
ドラえもん: お名前 を おしえてね
: さらばだ ドラえもん
: まてー!
突然、だれかが私とドラえもんの会話に割り込んできた。
と、同時に、会話の優先権が「だれか」に移った。
私が何かキーを叩いても、反応はなかった。
「だれか」はドラえもんと会話を始めたようだ。
私は急に恥ずかしくなって、というかスゴく悪いことをしたような気がして、すぐページを閉じてしまった。
そしてドラえもんのページをブックマークから削除してしまった。
今でもなんだか後ろめたくて、そこのページを探す気にはなれない。
あのときの「だれか」が誰だったのかは、もちろんわからない。
でも私のイメージの中ではあの時の「だれか」は、はっきりと「のび太くん」だ。
あの時、のび太くんは何を感じ、そして今はどんな大人になっているのか。
是非一度会って話をしてみたい気もするけれど、のび太くんは私みたいな「悪の権化」みたいなヒトには会いたくないだろうな、と思うと少し寂しい。