ーOOO-恵方巻 in トーキョー2007
いつも愉快な弊社なのだが。
社長一家の昨日の晩ご飯は恵方巻きだったのだそうな。
オクサマが御自ら太巻きをお巻きになるつもりでいたので、お手伝いさんは中に詰める具の準備をしていた。
かんぴょうやみつばがズーッと長いと食べづらいから、あらかじめ包丁で具を所々切っておこうと思ったら、そこへひょっこり大阪の親戚のオバサンが上京してきて顔を出した。
「あら、恵方巻きの具に包丁なんか入れたらダメよ。みつばなんか長いまんま、ぐーっと引っ張り出すようにして食べるんだから。関西では昔からそうしてきました。長いまま太巻きを食べるから恵方巻きなのに、ソレに包丁を入れるなんて…」
と、ネチネチとしたツッコミが入った。
このヒトは何かに付け「いやあねぇ、コレだから関東のヒトは、何にもしらないで下品なんだから…」と言いたげな口ぶりのオバサンではあったらしい。
そして「恵方巻きならワタシの出番よ、まかせなさい!」というので、「では、ぜひ…」とオクサマとお手伝いさんはは恵方巻き作りを大阪のオバサンにお任せした。
「恵方巻きは太ければ太いほどめでたいんだから…」
と言いながら、オバサンはドバーンと景気よくご飯をノリの上に盛って、ぐいぐいぎゅうぎゅうと押しつぶすように広げていった。
もうそのご飯だけで十分太巻きになるんじゃ? っていうか、具は入らないんじゃないの? と思っていたら、そこにデデーンと気前よく具を乗せていく。てんこもり。
いくら太巻きでも、ソレは巻けないんじゃ? などと思っていたら、要領よくグイグイぐるりんと巻き上げて、見事なくらいずっしりした恵方巻きが出来上がった。さすが、手慣れてらっしゃる。
そして晩ご飯の時間。
社長が仕事を終えて、家族のみんなよりちょっと遅くに食堂に入ったら、そこは異様な風景だった。
家族の全員が集合しているのに、テレビも見ずに全員北北西を向いて、全員無言で必死に恵方巻きを食べていた。
社長が自分の席に着く。「いただきます」。全員一言も口をきかない。
恵方巻きを手に取る。
ずっしり。重い。
食べる。がぶり。実に太い。
噛み切ろうとして、噛み切れない。ぐいっとひっぱる。かんぴょうがニョロリと出てくる。
かんぴょうは何とか噛み切る。ぐいっとひっぱる。みつばがズルリと出てくる。みつばはどうしても噛み切れない。しかたなく、ぐいーっと引っ張る。でれーんとみつばが垂れ下がる。
「どうもみっともないねぇ。コレ、一口大に切った方が食べやすいんじゃ…」
と言い掛けたら、大阪のオバサンが
「恵方巻きを食べ終わるまでは、口をきいたらイケマセン! 今年一年の福が逃げていきます!」
と、エラい剣幕で怒る。
ははぁなるほど、ソレでみんなさっきから黙っているわけね…と思いながら、仕方なく社長はそのまま恵方巻きを黙々と食べ始めた。
太くて太くて大変めでたい恵方巻きは、ずっしりと食べ応えがあって、というか食べるのに骨が折れて。
社長の席から北北西はカベだったので、食べ終わるまで黙々とカベとにらめっこをしていた、ということだった。