ーOOO-ちびちびビールをなめながら

 先日の日曜日の夜は、中学のころからの友人数人と集まって、軽く飲んだ。
 結婚したもの、離婚したもの。いろんなヤツがいた。
 某私鉄の駅員をしている友人は、以前はお酒は全く飲めなかったのだが、最近は少しは飲めるようになっていた。ちびちびとビールをなめながら、彼は
「ヒラの駅員から、主任になっちゃったよ」
と言った。
「給料が上がるわけでもないし、責任ばっかり大きくさせられちゃってさぁ」
と言いながら、駅の後輩や新人の失敗談を楽しそうに話す。彼が駅では後輩に慕われている様子が伝わってくる。
 思えば、中学時代の部活でも、彼は後輩に慕われていた。「主任」というと言葉はカタいけれど、しかし「良いアニキ」という言葉に置き換えるなら、それはなかなか彼にふさわしいポジションではないかと思えた。


 日曜日はPASMOSUICAの相互運用が始まった日だった。
「お客さんはスーッと乗ってピッと、だけどさ。裏では新しい精算の機械とかシステムとかが入って、ぐちゃぐちゃで大変よ。なんか変な乗り継ぎの区間によって料金が違っちゃったりしてさぁ。お客さんに 『すいません、ココの区間はこうなってこうなるからこうですよね?』なんて言われちゃうと、はいはいそうですそのとおりです、なんて言って。逆にお客さんの方がそういうのは詳しいんだよねぇ。まいっちゃうよなぁ」
 この日は実は、友人は始発が走り出してからのトラブル対応に備えて、朝の3時から待機をしていたのだという。
「ここ何年かは、駅もハイテク化って言うかなんて言うかで。落とし物が出てくると、手元のコンピューターでカチャカチャやんなきゃなんないとかさぁ。前なら電話をかければ、各駅で連絡しあって一発でわかったんだけどさぁ。まあ、そういうのは「一発でわかる」じゃなくて「無駄」とか「手間」とかなんだろうけど。でもさ、今度のPASMOだろ。難しい手間な機械が入って来ちゃってさ。だから、 『もうついてけネェから、辞める!』って言って、ベテランの駅員さんたちがゴソっと辞めちゃってさぁ。現場は若手で回さなきゃなんないし、ホント大変よぉ」
 大変だねぇ、とビールを勧めたが、彼は断わった。
「今は駅員も運転手も『勤務8時間前から酒は飲まないこと』みたいなルールになっててさぁ」
 しかしまだ今は夜の8時だ。
「明日の始発に間に合うように、これから駅に寝に帰って、当直して、朝4時には起きなきゃなんないのよ。で、駅に帰ったときに酒くさかったりすると、コンプライアンスって言うの? なんかチクリの奨励制度みたいなのがあって、本社に告げ口されちゃうんだよね」


 彼がお酒が飲めるようになったのは、「ビールが美味しいから」ってワケではなさそうだった。