ーOOO-酒は飲んでも

 金曜日の夜は、お台場に行ってビールを飲みながらトークショーを聞いてきたですよ。
 なんかこー、ご立派なヒトのイベントだったので、「オレなんかが参加しちゃっていいんだろうか?」みたいなことを自問自答しながら現地に向かったですよ。しかしいま思えば、その気が引ける感じというのはイベントに対する熱い期待の裏返しでもあったわけで。ワタシはスゲー楽しみだったワケなのですよ。
 クソ暑い一日、仕事が終わってから現地に直行です。カラダは乾きまくり。道中、キオスクとかスタバとか自販機とかの冷たい飲み物に目を奪われまくり。んが、うまいビールが飲みたい一心でガマンガマン。


 「ビール好きのみなさんの集まり」みたいなタイトルのイベントだったので、現地に着いたらさっそくビールを注文したですよ。
 そしたらあーた、もうプラスチックのカップにビールを注いで置いてあったですよ。注ぎ置きしてあるビールがずらっと並んでたですよ。ソレにビールサーバーで泡をチョンと乗せて「はいどうぞ」って、さ。
 …いや、「どーぞ」って。
 今日は「ビール好きのみなさんの集まり」みたいなタイトルのイベントだろーよ?
 その気が抜けたようなヌルいビールはないんじゃないのぉ?
 禿げしく萎える。
 しかしまぁ、世の中にはコレよりヒドいビールを出す店もある。今日のビールは実際にはヌルいわけでもなく、炭酸が抜けてるわけでもない。飲めないビールじゃない。
 しょうがないので一人で乾杯。
 乾いたカラダにビールは染み渡っていく。はぁぁぁ。
 腹が減っていたのであれこれ食べてみた。
 味についてはあくまでもワタシの好みの問題なんだけど、一番美味かったのは野菜スティックだった。2番目はミックスナッツな。
 ってかよー、あんなに立派なキッチンがあって、乾きモンばっかり出てくるってどーなのよ? 焼きそばとかモツ煮込みとかは料理のうちに数えないッすよ?
 あのよー!
 もー、あ────!


 しかしまぁ、あくまでもコレは「ビール好きのみなさんの集まり」的なタイトルだというだけで、実際のイベントではビールを飲むことに主眼は置かれていなくて、ご立派なヒトのトークを聞くのがメインなのだと捕らえれば、まあソレはソレで。そういうものだと言い聞かせる。
 んで、トークが始まったんですが。


 うん、しかし、ソレはソレで。こういうイベントなんだなーと思った。
 ご立派なヒトの熱狂的なファンのヒトが集まるイベントなのであって、楽しめなかったのはどちらかと言えばコチラが悪いのだろうと考えた。アチラは悪くない。
 自分は場違いなんだなーとか感じつつ、でもせっかく来ちゃったんだし最後まで楽しもうかなーと思うんだけど、乗り切れない。
 だーっ、もう飲むしかないんだよぉっ!
 でもビールはあんなんだしよ−。
 もー、あぁ────!
 だあ───────────────────────────ッ!


 イベントが終わって外に出れば、そこはお台場。夜景がきれい。
 終電までには間があって。まっすぐ帰るのもつまらない。
 目の前には巨大観覧車。
 酔った勢いで、乗ってみようかと思う。
 チケット一枚900円。
 ぬぅ。
 ちょっと酔いが覚めかけるが、まあいいかとお金を払う。
 と、ココで、観覧車の受付のお兄ちゃんが言うには
「観覧車には普通のゴンドラと、周りが全部透明なゴンドラの2種類がございます。どちらも料金は同じです。ただいま普通のゴンドラは待ち時間なしでお乗りいただけますが、透明なゴンドラのほうは4つしかありませんので5分ほどお待ちいただきます。どちらになさいますか?」
 値段が同じなら、5分待っても透明なゴンドラのほうがネタになりそうだなーとおもったので、気軽にそちらを選んだ。


 受付から乗り場まで階段を上っていくと、間の良いことにちょうど透明なゴンドラが入ってきた。
「はい、お乗りくださーい」
 スムーズに、せかされるように、ゴンドラに乗り込むワタシ。
 がちゃんとトビラが閉じて、ふわんとワタシは宙に浮いた。
 待たされるハズが、スムーズに乗り込めちゃったことで、心構えみたいなモノが全く出来ていないワタシ。
 そして、もともとこの観覧車の搭乗口は、ビルの4階くらいの高さなので、「ふわん」と浮き出した直後からけっこう高い。いきなり高い。
 え、え、えええええ?
 ゴンドラの周囲はマジで透明。
 っつーか、足下まで透明ですよアータ。
 ゴンドラは透明アクリルのつなぎ目の金属部分が細くて、鳥かごに乗ってつるされているような心細さを感じる。
 っつーか、怖い!
 酔っぱらったイキオイで乗っちゃったは良いものの、スゲー怖くなってくる。
 「ちょ、止めて…」とか「やっぱ降りたい」とか思ったけど、もはやソレは出来ないんだよなぁ…。絶望感と後悔の念。
 観覧車の中にアナウンスが流れる。
 「一周15分の空の旅をお楽しみください」
 15分、ですか…。
 観覧車に乗る前は「写真なんか撮っちゃってブログに貼ろうかなー」とか思ってたんだけど、そんな余裕はまったくなし。
 ゴンドラの天井にはクーラーがあって、ゴウゴウとけっこう大きな音をさせて冷風を吹きつけてくる。
 強力な冷風で寒くて仕方が無くて、酔いがぐんぐん覚めてくる。あるいは怖くて寒気をおぼえているのかも? 自分でもよくわからない。
 そんでもって、このクーラーのゴウゴウいう音のせいで、逆に他の音が全く聞こえない。地上の音とかが全くわからなくて、ウルサイせいで逆に静けさや孤独感が高まるというか。
 なんだか息苦しい。窓がない密閉空間。閉所恐怖症とかじゃ無かったハズなんだけど。っつーか周囲が全部透明な場合、閉所と呼んで良いのか。
 足もとを見る余裕、全くなし。床は完全な透明じゃなくて、たくさんの人が乗ったせいでスリ傷だらけ。微妙に曇りガラス風になっていたから助かった。完全な透明だったらイヤすぎる。
 閉所と高所がミックスされた恐怖。
 うわー、高い高い高い!
 一人でゴンドラに乗っているので、微妙に傾いている。いや、問題ないと思うのよ。それで大丈夫だ、とは思うのよ。でも、カラダが恐怖を感じちゃっててダメだ。
 思い出すのは先日の中国だったかの観覧車の事故。あるいは大阪のジェットコースターの事故。不安だ…。
 頂上が近づくにつれて、風か何かで揺れているのか、観覧車全体の微妙な振動が増幅されて揺れが増す。
 高い高い高い!
 怖い怖い怖い!
 どわぁぁぁぁぁぁ!


 観覧車は当然のように問題なく生還。
 しかし、まあ、コレはコレで楽しい体験だったですよ。


 んで翌日。
 会社で後輩にこの観覧車の話をしたら、
「楽しいってか、よっぽど怖かったんですね…。センパイの話の中に『楽しかった』とか『きれいだった』みたいな感想が1個も入ってないじゃないですか」
 むー。