ーOOO-すべり込み、アウト!

 土曜日の朝、ローカル線の始発駅。
 会社に向かう途中のワタシは、電車のドアのそばに立ち、すぐ目の前の改札口のあたりをバクゼンと眺めていた。


 定刻通りに発車のベルが鳴る。
 プシューンとドアが閉まりそうになったその時、改札口から全力ダッシュで高校生が走ってきた!
 改札から三段ほどの階段をダンダンダンッと踏みきって、点字ブロックのあたりで足を取られ、ズガーッ!
 ゴロゴロゴローッ!
 ソレはもう見事にスッ転んだ。ホームの上を2回くらい前転した。
 そのとき電車のドアは閉まってたのだが、プシューンとドアが開いた。あれはきっと車掌さんが、転んだ高校生を気の毒に思ったんだろう。ってか、車掌さんだけでなく、あの電車に乗っていたヒトはみんな、彼のことを気の毒に思った。
 高校生は立ち上がり、ヒザや身体についたホコリをパンパンと払った。
 ほら、キミ、乗りなよ。急いでたんでしょ?
 と、その時。
 彼はくるっときびすを返して、改札口に向かって歩いて行くではないか!
 もう完全に彼がこの電車に乗らないことがハッキリしたあたりで、電車はドアを閉め、発車した。
 彼はこちらを見ないようにしながら、背中で電車を見送っていた。


 彼はあんなに急いでいたのに、なんで電車に乗らなかったんだろう?
 考えてみれば、あんだけハデにスッ転んで、電車の中のみんなが注目しているような状況で、その電車に乗れるか? っつーか、乗っちゃったらみんなの視線が恥ずかしくて居られないよなぁ。