ーOOO-ゆるゆるふわふわ

 1分1秒を争う朝。だだだっと駅の階段を駆け下りて、通勤電車に乗りこもうとした。
 と、オイラが乗ろうとした乗車口は、まんなかにゆるふわ系ガールが立っていた。
 時間がないので乗りこもうとすると、ゆるふわガールは身体をよけるそぶりもなく、ド真ん中で仁王立ちのまま。横から身体を滑らすように乗りこむワタクシ。


 ドアが閉まり、電車が走り出す。
 と、そのとき気がついた。
 ゆるふわガールは、ドア中央部にへばりつくように仁王立ち。ジッと外を見つめている。そして後方および左右には、ぐるりと大きめのスペースが空いていた。
 その女子の背中からは「アタシにちょっとでも触ったら、タダじゃおかないよ!」的なオーラが出ている。周囲の乗客はその殺気に押され、ラッシュの時間帯にもかかわらず、大きく大きく距離を取って非干渉地帯を作り出していた。
 ははあ。これは、ゆるふわガールをよそおった、対人地雷兵器! そのくしゃくしゃっとしたスカートとか、ふわふわっとした髪の毛は、巨大なセンサーだ。荷物がうっかり触ろうものなら、感圧起爆し、腕の一本も持って行かれてしまうのだ。
 なるべく距離を取りたかったのだが、押し合いへし合いしているウチに、ワタシはゆるふわガールの真後ろに押し出されてしまった。みんなそこに立ちたくないらしい。
 やっかいなことになるとやっかいなので、ワタシは片手で吊革をつかみ、もう片手でスマホをプチプチ。なおかつ、おなかはひっこめ、荷物はくっつかないように。とにかく気を使ってしまう。


 息詰まる時間が過ぎる。
 スマホを使いながら、ワタシはつい、ふっと顔をあげた。
 そこにあるのは、ゆるふわガールの後頭部。
 おや、ふわふわした髪のまんなかに、何かついてる…?
 泡だ!
 ばっちりヘアーを作るために使った、スタイリングフォームの泡なのかッ!
 みっともないので、教えてあげた方が良い気がする。
 しかし、どうすればよいのかわからない。
 相手は後ろを見せているから、身振り手振りで伝えるわけにもいかない。
 なんて声をかけたらいいのだろう?
 しかし世の中何が起こるか分からない。
 ここで声をかけたことがキッカケで、オイラの運命が大きく音を立てて変わっていくかもしれません。
 しかしこの場合、どの選択肢をどう選んでも、バッドエンドしか思い浮かばないオレ。


 と、電車は駅に着き、ゆるふわガールはすたすたと歩き去っていったのでした。