ーOOO-赤外線通信なら一発

 ウチの後輩君は、ソフトバンクガラケーを使っていた。
 けっこう古い機種だし、充電コネクタもメモリカードスロットも壊れかけていて、なんだか不安定だという話。
「そんなの今なら、iPhoneとかに買い換えちゃえばいいじゃん?」
と、会社のみんなで言ったのだが、
「いやあ、まあ、なれてますから。えへへへへ」
と笑って、本人はけっこう満足そうだったのだ。


 つい先週のこと。
 後輩君は、歩道でケータイを落としてしまった。
 からからからっ、しゃーっ!
 滑ってケータイは道路に飛び出した!
 と、そこにトラックが!
 コントみたいなシチュエーションで、ケータイはぐっしゃりと。
 見た目はなんでもないのだが、液晶にヒビが入るほどのダメージ。ギリギリ電源は入るし、なんとか操作できる…という危うい状況。


 後輩君はここでとうとう、携帯電話の買い換えを決断。ソフトバンクからauに変えて、Android端末の Xperia Acro HD を買ったのだった。
「いやー、なにもかも違う感じで、たのしいですね−」
 画面をスリスリしながらニコニコする後輩。
 まー、そらーそうだろう。ガラケーからの乗り換えだと、何もかもが違う。
「いま、住所録を移してるんですけど、なんか、入力するのが大変で…ほら、あの上下左右に指を動かすのが慣れなくて…」
 フリックで文字入力? いやいや、いちおういままでのケータイみたいに「”1”を5回連打すると”お”」みたいなのも出来るから。
「あ、ほんとだ。へー。知らなかったなー」
 でもさ、メモリーカードで住所録を移すとか、ケーブルで転送とかできないの?
「前のケータイがいよいよブッ壊れてきて、もうメモリーカードもケーブルも使えないんですよ…」
 それは不便だね…。まあ頑張って。


 その翌日。
「いやー、実は、赤外線通信を使うと住所録を一発で転送できることに気がついたんですよ」
 おお、そりゃよかった!
「それが、転送と受信の設定を逆にしちゃって、Androidから古いガラケーに住所録を送っちゃって、いままでの住所録がキレイサッパリ無くなっちゃって…」
 うわっ!それは怖い!
「あのー、センパイ、電話番号とメールアドレスを教えてくれませんか…」
 いいよいいよ、と教えるオレ。


 しっかし、この場合、ソフトバンクからauに移っちゃったから、メールアドレスが変わっちゃって、友達からメールが届くってコトはないわけじゃん? 古い友達と連絡が取れなくなっちゃうよね…。
「ええ、まあ、そうですよね…」
 でもMNPだから、あっちが電話をかけてくれば連絡がつくかな。
「いや、MNPじゃないんです…。だから、電話番号も全然違ってて…」
 えっ?
「なんか、ほら、変な縛りとかイヤじゃないですか? だから、新規一括で、新しいケータイにしちゃったんですよね」
 はー。そうなんだ。新規一括だと安かったの?
「いえ、なんか、定価で。6万くらいかかって」
 えー!


 ふと疑問に思う。
 なぜ彼は、MNPしなかったんだろう? と。
 ひょっとしたら、新しい電話番号が欲しかったんじゃないか?
 つまり、昔の友達から電話が来るのがイヤだったんじゃないか?
 友達というか、…彼女と別れたのかな?
 電話が壊れたのも、トラックのせいじゃなくて、ひょっとしてケンカで…。
 などなど、疑問や妄想のタネは尽きない。


 でも、そのことを質問したりはしませんでしたとさ。