リナちゃんとパパ ─◯◯◯-

友人とその娘のリナちゃんのおハナシ。
リナちゃんは幼稚園の年長さん、だったかな?



それでさ、俺とリナがデパートの中を歩いてたわけよ。
なんかアイツおもちゃ売り場のガラスケースに張り付いたまま
動かなくなっちゃってさぁ、
「持ってるだろ!」「買ってやんないよ!」とか言っても
聞きゃあしないんだよ。
オレもこれから用事はいろいろあるし、もう困っちゃってさぁ。

でも買う物はあと一つだけだったから、
「おまえここで待てるか?」って言ったら、
「うん、リナちゃんね、パパのこと、ココでちゃんと待ってるからねっ」
って言って、ガラスケースにピターッとくっついたまんま、
コッチを振り向きゃあしないんだよ。
じゃあいいやって、ソッコー別な売り場で買い物して
戻って見たら、アイツいねぇんだよ!

んで、ちょっとおもちゃ売り場をグルグル回って、トイレの中とか探して、
あっ、駐車場の車に戻ったのかな、と思ってダッシュしてもいないし。
オレ、不安になっちゃってさー。
ひょっとしたら連れ去られた? とか、ヤなこと考えちゃうじゃん?
もう途方に暮れながらそれまで歩いてきたフロアをくまなく探してたら、
館内放送がなって。
「リナちゃんのパパ、受付でリナちゃんがお待ちです。特徴は…」
ホッとしたんだけどさ、
受付でリナちゃんがお待ちです、ってコトは…
あーっ! オレが迷子になったことにされてる?

んで受付に迎えに行ったら、婦警さんとリナがいてさぁ、
やあどうもどうもご心配おかけしました、とか婦警さんと話してたら、
リナの奴、キョトンとしてんの。
んで婦警さんが
「はーいリナちゃん、この人はあなたのパパですかぁ?」
って聞いたら、
アイツ、首を横に振って婦警さんの後ろに隠れちゃったんだよ!
うわー、パパの顔わかんないのかー、困ったなー。
もうホント仕事一筋であんまり遊んであげられなくてゴメンねーとか思いながら、
もう必死で、買ったばかりのコート脱いだり、サングラス外したりして、
「はーい、パパでしゅよーっ♪」
とかやったら、
リナの奴、やっと「あっ!」って顔してさぁ、
あー良かった、ようやく思い出してくれたかぁ… と思ったのよ。
んで、婦警さんが
「もう一回聞くよぉ、この人は、リナちゃんのパパ、ですかぁ?」
したっけ、
あんにゃろう、すごい勢いで首を横に振りやがるんだよ!
なんだよ、オマエさっき「分かった!」って顔してたじゃないかよ!
っつーか婦警さんがオレのことをジロジロ見てるよ!
不審者だと思われちゃってるみたいだよ!
もー、このまんまだと警察つれてかれちゃうのかなーとか焦っちゃってさぁ。

んで、まあ、家に電話してヨメさんと婦警さんと話してもらって、
事なきを得たんだけどさ。
リナとの帰りの車の中で、もう疲れちゃったし、不機嫌だしで、
ブスーッとしてた訳よ。
さすがにリナもこりゃまずいと思ったのかさぁ、
「パパ、ごめんね」って言うワケよ。

「パパ、ごめんね。
 リナね、
 あのとき、びっくりしちゃったの。
 びっくりしちゃって、
 どうしていいか、わかんなくなっちゃったの」

いや、あのさぁ、びっくりして困っちゃったのはこっちだからさぁ、
とか思いながら、オレはだまーってブスーッとしてた訳よ。
したっけ、リナが

「そうだ!
 あのね、リナね、ようちえんで、ピアニカのおけいこしてるの。
 ピアニカ、ホメられたんだよ。じょうずなんだよ」

とかいって、急に後ろの席からピアニカ取り出しちゃってさ、
なんかいきなりすごい勢いで弾きはじめちゃってんの。
せっまい車の中で、回りは渋滞だし、こっちはカリカリしてるのにさぁ、
もう必死でピアニカ弾いてんの。
あいつなりに、どうにかしたかったんだろうね。

なんかそういうとこが、カワイイよね。