T_843 ーOOO-

ミュージカルバトンを渡された日、
そのバトンを受け取る直前にMP3に変換していたCDは
偶然にも「2ちゃんねる第九プロジェクト」のCDだった。

ワタシは第九オフの合唱参加者だった。
ワタシは楽譜の音符を読むことができなかったし、
ドイツ語で書かれた歌詞を読む教養もなかった。
へたっぴいでずいぶん恥もかいたし練習で汗もかいた。
練習に初参加した日から本番までの約三カ月のあの怒涛の日々が
この70分のCDを聞くたびによみがえって来る。

このCDから何か一曲選べ、と乱暴な注文を言われれば
ワタシは迷う事なく
「第4楽章 Poco Allegro, Stringendo II Tempo, Sempre Piu Allegro (T_843)」
を選ぶ。
このCDの最後のトラックだ。
楽器も合唱も一丸となって突入する第九のクライマックスの部分から
第九の演奏終了直後のお客さまからの8分間に及ぶ惜しみ無い拍手、
そして終演のアナウンスまでをひとつながりに収録してある。
このトラックだけの演奏時間は11分15秒。

各演奏者は一丸となって第九のクライマックスに突入する。
私も必死になって歌い、演奏が終了した時には放心状態になった。
そしてそこに、お客さまからの拍手。
あんなにもお客さまからの拍手が
暖かくうれしいものだとは知らなかった。

各楽器セクションごとに会場のお客様にごあいさつをすると、
そのたびに会場からの拍手が大きくなる。
最後にステージに第九オフの代表が立つと、
「代表ー!」と、会場からの声が飛ぶ。

そしてステージの上の私達が舞台を降り、8分間に及ぶ拍手が止んだ時、
客席のお客さまの
「すごいねー、よかったねー」
という一言が録音されている。

演奏者も、裏方さんも、お客さまも、
当日会場にいたすべての人が「第九オフ」の参加者で
このCDのこの部分には
あの日のすべての参加者の姿が収録されているような
そんな気がする。

バトンが回ってきてから半月のあいだ
第九オフについて何を書こうかとずっと考えていたけれど
思い出がいろいろありすぎてうまく書けない。

第九オフは
私のそれまでの音楽体験を一変させるような
すばらしいオフだった。
「人生の中の思い出の曲」を尋ねられたなら
真っ先に第九オフのことを挙げるし
それは一生変わらないだろう。