歯医者に行きたくない理由 ーOOO-

 こないだから歯がじわりじわりと痛んでいる。
 と、いうか現時点で歯はまったく痛くない。うずいている、というかイヤーな感じがするだけ。
 早く行った方がスグに治療が終わるのはわかっているけれど、まだちっとも痛くないんだし、もうちょっと、もうちょっと…などとイヤなことを先延ばしにしていたら、もう半年もたってしまった。


 なんとなく歯医者に行きたくないのには理由がある。
 こうみえても昔のワタシは、歯医者が嫌いじゃなかった。
 というかワリとマメに
「あー、前回の治療から一年たったから、そろそろ見てもらおうかなー」
なんつって、のこのこ歯医者に行ってあれこれ見てもらって
「悪い歯はありませんよー。じゃあ、歯石を取っておきましょうね」
とか言われたりする歯生活を送っていたのだった。


 ところがあるとき、親知らずが急にすごく痛み始めた。ハンパじゃなくズキズキする。
 たまらずいつもの歯医者に駆け込んだ。その日はいつも担当の男の先生はいなくって、かわりに担当してくれたのは新人のうら若き女の先生だった。
「小さい虫歯ですので、削っていきましょう」
 ドリルのスイッチが入った。
 チュイーン、チューン、ズキャキャキャ!
 小さい虫歯だと聞いたので、ワタシは麻酔の注射を打たなくても良いと思った。と、いうかワタシは麻酔の注射がキライだった。
 キーン、チュウーン、ズキャキャキャ!
 …が、思っていたより治療は長びく。
 痛い。
 痛みのあまり全身がこわばる。
 ついつい口を閉じそうになる。が、先生が治療をしやすいように、ワタシは必死で口を大きく開いた。
 ギュウウーン、ギャァァーン
 痛い。
 こらえきれない。
 ワタシは「痛かったら右手を挙げてくださいね」と言われていたことを思い出し、ここぞとばかりに右手を挙げる!
「もうすぐ終わりますから、我慢してくださいね」
 …バカなっ!
 恥を忍んで右手を挙げたのに、ガン無視かよ!
 しかし、もうすぐ終わるのか。ならば…
 ギャアアア、ギャウギャウギャウ
「…思ったより深い虫歯ですねぇー」
といいながら、先生はさっきよりも太い大きなドリルを取り出す。
 さっきとは異なる「ドゥーン」という低いモーター音。
 グウウーン、ギャウ、ゴギュギュギュ
 痛い!
 痛いよ!
 ワタシは必死で右手を挙げる!
「もうすぐっ!もうすぐ、終わりますから!」
 ワタシが必死なら先生も必死だ。
 ドリルは容赦なく荒々しくワタシの口の中に押し入る。そして歯科助手のヒトはゴミの吸い込みパイプを口の奥にグイグイねじ込む。
 ズコー、ズコココー
 そんなに突っ込んだら…オエッ。
 口を閉じそうになるのを必死にこらえるオレ。
 口を割り開いて強引に押し入るドリル。
 必死に挙げる右手!


 そして先生はドリルを置いた。
 オレも頑張った。
 だが先生も頑張った。
 先生は額に汗を浮かべながら、マスクを外す。
 そして最後にこう言った。


「思ったよりも深いんで、抜いちゃいましょう、親知らず。」