「ぶちん」 ─◯◯◯-

あのとき私は愛車ロードスターのために
庭の掃除をして駐車スペースをつくっていた。
とても庭木とは呼べないような駄木を
いきおいよく丸刈りにしたりしていた。

庭のすみっこには
やたらめったらデカくて目障りなススキが生えていた。
みっしりと密集して生えていて、抜くに抜けない。
植木バサミで地面ギリギリまで刈り込んだが、
根の部分がいかにもジャマっけだ。

そこでスコップを突き立てて、根を掘り起こそうとした。
さすがに一発では持ちあがらない。
ススキの周囲にぐるりと何度もスコップを突き立て、
ぶつぶつぶちりと細かく根を切った。
そこでいよいよグイ、とスコップを突き立て、
ススキの根を掘り起こそうとした。
バキン、
と大きい音がして、スコップは折れてしまった。
これほどまでにススキの根が強いものだとは知らなかった。
あわててホームセンターに向かい、
今度はスコップが折れないようにと
ちょいと値段が高い総金属のスコップを買って来た。

そしてもう一度ススキに勝負を挑んだ。
今度こそ。
そう思い、ずぶりと深くスコップを突き立て、
思い切りよくススキの根を掘り起こそうとした。

「ぶちん」

すごい大きな音がした。
ススキの根が切れる時には、
果たしてこんなに大きな音がするのだろうか。
とてつもなくイヤな予感がした。
「おい、大丈夫か、無理すんな」
離れていたところで一緒に作業していた友人が声をかける。
いまの「ぶちん」という音はそれほど大きかったのか。

なんとなくそれ以上作業するのが怖くなったので
ススキは放置することにした。
そのほかにもいろいろな作業が重なり、
なんだかひどくその日は疲れたので早く寝た。
翌日、腰のあたりに重たい疲れが残った。


それが三月頭の話。
最近はなんだか
おしりのほっぺたから、ふくらはぎにかけて、痛みが走る。
それはあの日からだったか、その前からだったのか。
仕事が忙しかったから、そのせいなのか。
痛みとともに、なんだか不安な気持ちを抱えながら
この一カ月を過ごしていた。


先日の花見の時に、
本職の整体師だという雲呑さんにその話をした。
雲呑さんは顔を曇らせながら、こう言った。

「それは…
 そのスコップを突き立てるときの身体の力の入れ方と
 おしりからふくらはぎにかけて痛いという症状から見て、
 その時に腱を切ってしまったんですね、間違いなく。」

えええぇ! じゃ、じゃあじゃあ、どうすればいいんですか?

「そうですねぇ…
 腰に負担をかけないように
 なるべく椅子にすわって仕事をするとか」

ああ! オレは立ち仕事がメインって言うか、座って仕事はできないです!

「では、なるべく重い物は持たないようにするとか」

いやいや! 重い物ばっかりなんですぅぅぅ!

「なるべくストレッチをした方がいいですよ、
 ウォーキングとかは避けた方がいいです」

うわぁぁ! オレ、会社帰りに軽くウォーキングしてたよ!
私がそう言うと、雲呑さんまで表情が暗くなる。
一気に湿っぽくなる花見の席。
その後私達のゴザでは
雲呑さん指導のもと、軽いストレッチ運動講座が開かれた。
夜桜見物で周囲が飲めや歌えやのバカ騒ぎの中、
ストレッチ運動をする我々。


「ぶちんと音がして腰の腱が切れてしまったらしい」
と知ってから、重い物を持つのが怖い。
前の日までは腰が痛いながらも
ひょいひょいと重い物を右から左へと動かしていたというのに。


ちょっと話はそれるけど、
他人が自分のケガなどの痛い体験談をしていると
聞いているだけでこちらが痛くなって来て
「やめてやめてやめてー!」
とか思っちゃうワタクシなのだ。

だから、自分が
「ぶちんと音がして腰の腱が切れてしまったらしい」
と思うと、
そのことを考えるだけで
昨日よりも症状が重くなったような気がして
今はものすごく憂鬱だ。