ーOOO-カレーライスの女の子

 会社の帰り道、駅の近所の裏路地を通ったら、インド料理の店があった。
「こんな所にこんな店があったっけ?」と思うと同時に、「そういえばココを通るたびに何度も同じことを思ってるっけ」と思った。
 そんなわけでそれまで食べたことがなかった店だったけど、その日初めて中へ入った。ドアを開ければインド臭。店内はインド風の内装だが、ピカピカではないのでユルい脱力感があって好もしい。先客はカップルが一組。
「ィラサイマセェー」
 若干日本語が不自由そうなインド人の店員さんがいたので、当然ワタシは本格インドカリーの味を期待する。
 注文を取りに来たのは日本人の女の子だった。マトンとトマトのカリーを注文。出来上がりを待っている間、ワタシはキッチンの中の店員さんのやりとりを眺める。インド人さんが店長さんらしい。謎の言語がキッチンに飛び交う。日本語? インド語? っていうか、インドの言葉は「インド語」って言わない気がしたけど、なんだっけか? ちんぷんかんぷんだ。あの女の子は店長さんが何を言っているかわかるんだろうなぁ。すげえなぁ。なんだろ、彼女? 奥さん? ひょっとして娘さんなのかな?
 と、その時、ぐらりと。
 え、あ、じ、地震がっ! おもわず店員の女の子と顔を見合わせる。ややあって、店員の女の子が奥から出て来て「地震、大丈夫でしたかー?」と聞くので「ああ、大丈夫ですよ」と言ったら、「最近、地震多いですよねー」と話しかけて来たところで「ォーイ」と奥から呼ばれて女の子は行ってしまった。なんだなんだ、話したそうだった? オレに惚れたか?(←気が早いよ)
 んでカレー。ややドロリとしたカレーは辛いんだけど、香辛料の香りが独特。カレー専門店で食べる機会の少ないワタシには、ああいう香りは初めて。マトンはきっちり煮えていて口の中でほどけていくのだけれど、カレーや肉自体は決して油っこくない。また食べてもいいかも。
 満足して、「ごちそうさまでしたー」と、お会計をお願いする。「はーい」と女の子が出て来てレジを打つ。
「えーっと、えっと、えっとぉ…」
 店長さんが出て来て、レジの打ち方を教えている。でもレジ打ちに失敗する女の子。その時ワタシはなんとなく察する。この女の子、入ったばかりのアルバイトさんなのね?
 そして店長さんはインド語なまりのカタコト日本語で、「コレ、ココ、ココ、コウ、ソコ、ソウ」とか言ってレジの打ち方を教えている。店長さんは優しいヒトで、すごく親切だったのだが。でもレジをちらっと見てみたら、盤面は数字以外インド語で書かれたメニューが並ぶ。うわ、コレ、わっかんねーよ。
 ようやくレジを打ち終わり、「ありがとうございました」と、女の子。その目はなんだか、オイラに助けを求めていた。ああ、キミは今、とにかく誰とでもいいから日本語をしゃべりたい気分なのね?