ーOOO-萌黄色
私は通勤電車の窓越しに柳の木を眺めることが多い。
春と言えば桜の季節だけれど、私は春の柳も好きだ。
柳と聞くとどこか陰気な、うっそうとした樹を思い浮かべる人の方が多いだろう。
けれど春先の柳は、怪談に出てくるような恐ろしげな樹ではない。
ゆらゆらとしだれた枝に、細い細い若葉が育ち始める。ごく薄く、柔らかげな若葉をまとい、まるで新茶のような浅い緑をゆらす柳。
こういう浅い黄緑色はやはり、萌黄色と呼んだほうが気分が出る。
そよ風に揺れる柔らかな枝は、葉をきらきらと光らせ、細長い若葉はそれ自体がもえぎ色の光りに透きとおる。ぬるく心地よい春風の吹く日に、柳の木から地面に落ちる影は、同じ形にとどまりはしない。見ていて飽きることがない。
そんな柳の木のなかでも、柳越しに見る桜の樹、というのは美しい。
やわらかい萌黄色越しに桜を透かして見ると、それまでは白い白いと思っていた桜の花が、ぐんと深い桜色に見える。
近所にそういう桜が見えるポイントがあるので、写真に取ろうと思った。
で、その樹に近づいて見上げるようにして撮ってみたけれど、いつもの感じが出なかった。電車に乗って立ってる時に見るのがちょうどよい感じらしい。かといって電車の中から携帯電話のカメラで狙うとブレてしまうし、電車はすぐに樹のそばを通り過ぎてしまうので難しい。
「じゃあ別な木を」と思ったが、しかし考えてみると柳の木は街中にあるものではなくて、さらに柳のそばに桜となると、ちょっと他所にはないような気がする。
もたもたしているうちに、桜の花はとっくの昔に散ってしまったし、柳の緑はここ最近の雨でだいぶ濃くなってしまった。