ーOOO-新曲披露
ウチのお隣のオクサンは、ピアノが趣味みたいです。
うららかな昼下がりになると、オクサンはピアノを弾きはじめます。
柔らかな音が響いて来る生活というのもなかなか良いもので、ワタシはお隣から聞こえて来るピアノの音にしばし耳を傾けるのです。
で、お隣のオクサンはいつもいつも同じ曲を弾いている。どうやらソレがお気に入りの曲らしいのだ。
んで、ワタシは原曲を知らないのでなんとも言えないのだが、音の響きがあんまり美しくない瞬間がある。間違っちゃったんじゃないかと思うんだけど。
時にはそういう瞬間に音が止むことがあって、オクサンはそこの部分を何度か弾き直す。でも、その変だった部分の音をピンポイントで弾き直したり、1小節分くらいだけちょっと弾きなおしたかなーと思うと、また先へ先へと楽しげに曲は進んで行く。
そんな調子だから、毎日毎回いつもの場所で曲が変になる。でも楽しげに曲は進んで行くのだった。
ワタシが今の家に引っ越してきてからの一年半、オクサンはいつも同じ曲を楽しげに弾いていた。
そして一向に上達の跡は見られなかった。
ところが昨日のこと。
昨日お隣から聞こえて来たのは、全く知らないメロディー。
どういう風の吹き回しか、オクサンは新曲にチャレンジしているようなのだった。
一年半という時間。歳月は人を動かします。
さて、今度はどんな曲なのかなぁと、お隣から聞こえて来るメロディーに耳をすましてみれば。
ミスタッチの嵐。
弾きなれない曲に手こずるオクサン。
美しくない響きが何度も聞こえ、そのたびに曲は止まり、つっかえつっかえ曲は進んで行きます。
聞いていると、いかにも苦しげ。何度も何度も曲が止まります。
と。
いきなりオクサンはいつものメロディーを弾きはじめました。
テンポ良く、楽しげに、あるいはふっ切れたかのように。
「ワタシはこの曲が好き!」
という愛に満ちあふれる演奏でした。
そして、いつもの場所でいつものように弾き間違えてました。