ーOOO-腰痛バレンタイン

 本業和菓子屋さんであるところのワタクシは、腰痛持ちだ。
 なので最近はよく整骨院に行く。
 週に二回くらい顔を出し、じっくり揉んでもらう。揉まれながらセンセイたちの無駄話に耳を傾けたり、相づちを打ったり。
 揉んでもらうリラックス効果の他に、そういう無駄話をすることにもリラックス効果があるような、ほんわかした空間だ。


 んで先々週のこと。
 センセイたちの無駄話のテーマはバレンタインだった。
 毎年バレンタインになると、そこの整骨院は患者さん一人一人にチョコを配るのがサービスというか、習わしなのだそうな。
 去年は手先が器用なオトコのセンセイが、クッキー作りにチャレンジ。百人分配るため、都合三百枚を焼いて準備して、患者さんたちに配ったのだそうな。
 しかしそのセンセイは移動でヨソの整骨院に移ってしまったので、今年はバレンタインのお菓子を作る担当がいない。さて今年はどうしようか…。
 そんな話をしていたので、黙って聞いていたら
「あっ、ココにお菓子の職人さんがいらっしゃるじゃ、あーりませんか♪」
 えっ、オ、オレ? いやあ、ダメですよう、自分は和菓子屋だから、チョコとかは扱ったことが無いですから…。
「まーたまたまた、ご謙遜。扱ったことがないとはいえ、我々よりは遙かにお菓子の扱いになれていらっしゃるハズでしょう?」


 ここで悩む。
 そーいうハナシは嫌いじゃない。手伝ったっていいかも、と思う。
 だけど、手伝うからにはプロの技を期待されるわけで。でも洋菓子はやったことがないわけで。大苦戦が予想される。
 問題がもう一個。
 ココの整骨院のセンセイがたは皆、和菓子がそんなに好きじゃない、ということ。チョコが大好きなセンセイとか、根本的に甘いモノが苦手なセンセイとか。なんかそーいう感じだと、和菓子を作っても喜ばれなさそう。
 和菓子でお茶を濁すわけにはいかず、作ったことのない洋菓子にチャレンジして成功しなければならない。コレは大変っぽい。
 なので、
「あっ、そーいえば伊東家の食卓で、簡単に作れる手作りチョコのウラワザを見たことあるんですけど、ネットで検索してみたらどうでしょうか?」
とか言って、話をそらしてしまった。


 しかし、あとになって考えると気が重いというか、気が引けるというか。
 困っているヒトにお願いされたコトを、断わってしまって悪かったなーという気持ちになって。
 かといって今さら「ボクがやりますよ!」と言いに行くのもヘンな気がして。
 なーんか気詰まりになったので、整骨院から足が遠のいてしまった。


 で、いよいよ今週はバレンタインなワケで、だから整骨院では何かお菓子を配り始めているんじゃないかと思うけど。
 ここでマッサージに行って「あっ、チョコもらいにきたんじゃネェの?」とか思われるのは何だかイヤなので、なんとなくマッサージに行けずにいるワタクシなのだった。
 なんか腰とか背中とかが痛い気がするんだけど…。今週はガマンかなー…。