ーOOO-ちいさな春の新生活

 こないだのお休みの日の話。
 前の日の夜に早寝をしたら、いつもの時間に目が覚めた。いいお天気というか、ぽかぽか暖かくて気持ちが良かったので、そのままうつらうつらとまどろんでいたのだが、9時には目が覚めてしまった。もう眠れない。
 空は晴れ、いいお天気。
 ふと「自転車で会社に行ってみようかな」と思った。
 いや、休日出勤したい訳じゃなくて、家から会社まで、自転車で果たして何分かかるのかということに興味があった。


 さっさと身支度して、自転車を漕ぎ出す。
 ウチから駅まで10分。そこから電車で30分。ふだんの通勤時間は合計40分。
 いつもなら駅に着くと自転車置き場に向かうところだけれど、今日はここからちょっとしたチャレンジが始まるのだ。さて、ここから自転車で何分かかるやら。
 軽く汗をかきはじめていた。コンビニでポカリスエットを買う。信号待ちのたびにチビチビ飲もうと思ったけれど、意外にそんなスキは無かった。
 自転車は渋滞に巻き込まれない。信号待ちでは停止線まで進むことが出来てしまう。あと自転車であれば信号に引っかからずに進めてしまう交差点も多い。T字路とかね。
 体感的な時速はいつも自転車を漕いでいる時と同じ。だけど思っていたより早く、ぐいぐいと自転車は会社に近づいていった。
 国道沿いで信号を直進したら、不意に歩道が無くなってびっくりした。思えばソコはバイパスっぽい部分ではある。見回せば、車道の2メートルくらい下を歩道が走っている。えー? どうやってあそこに出るの?
 Uターンしようにも、身体の右横を制限時速を越えたスピードでダンプカーが「ドドドズロロロロ」と抜けて行く。怖い。
 自転車で高速道路にノコノコ入っていって、車にはねられて死んだ交通事故のニュースを不意に思い出す。あー、オレも同じくらいアホなのか?
 ガードレールのすきまに隠れ、車の往来が少なくなると前に進む… フロッガーみたいな感じで前に進んで、ようやく歩道にたどり着いた。いやー、危なかった。
 思わぬピンチをしのぎ、無事に会社へ。
 家から会社まで、時間は40分だった。電車に乗っても自転車のままでも、時間に大差が無いことが分かった。
 早い! 意外!


 んで、会社の近所のスタバで一服した。
 そしてワリとすぐに、からだの疲れが抜けない状態でUターンして帰った。
 これは、実際に自転車で通勤した時に、仕事で疲れた日でもイヤにならずに帰れるか? の実験。
 コレがワリとヘーキだったのだった。
 最近のワタシはスポーツクラブで一時間走る日もあったりするからだろうか、思ったよりも楽だった。ランニングマシーンはノンストップで一時間走らなければならないけれど、自転車であれば信号待ちで停まることもあるし、下り坂は漕がなくていいし…上り坂はつらいけどサ。
 あと、スポーツクラブと違うのは、景色がどんどん変わること。
 土手っぷちを走っていたら、風が気持ち良い。信号がないので、ぐんぐんと飛ばせて、距離を稼げる。
 あー、行きと違う道ということで、このまま真っすぐいって、いい感じの部分で曲がって帰ろうかなぁ。土手を走る気持ち良さに、予定を変更してぐんぐんと川なりに進む。
 土手でのんびりしていた鳩の群れに突っ込んだら、鳩がぶわぁーっと飛び上がる。ポポポポポ…と、目の高さを飛んで行く鳩。スピードも自転車とほぼ同じ。ちょっとしたWATARIDORI体験ですな。
 んー。土手。楽しいなぁ…。
 …っつーか、疲れてきたかも。
 信号のない土手。極端な上りも下りもなく。漕ぎっぱなしの走りっぱなし。
 ってか、ずいぶん遠くへきたなぁ…。ココはドコ?
 土手を降りて住宅街に入ったら、見晴らしが急に悪くなって、今どこだか分からない。プチ迷子だ! うひゃーっ!
 GPSケータイ欲しいなぁ…と思う。


 んで、迷子になったりしたけれど、それでも一時間ちょいで家に帰ってこれた。
 仕事で疲れた日でも、自転車できちんと帰れそうだ。
 自転車通勤だと、会社帰りに寄り道出来るお店が増えるなぁ。
 んー、健康のためにも、定期券代を浮かせるためにも、これからは自転車で通勤しちゃおうかな?
 春だし、小さな新生活スタートみたいなのも良いかもしれない。


 翌日は大雨。
 あー、そうね。自転車通勤だと、雨が問題かなー? 一日中雨なら電車でも仕方が無いけど、夕方から雨が降りっぱなしだったらどうしよう?
 そんなことを考えながら、いつものように電車に乗って出勤した。


 今日は晴天。
 念のために天気予報をみて、降水確率がゼロパーセントなことを確認する。
 会社へ行く身支度をして、自転車を漕ぎ出す。
 ウチから駅まで10分。
 そしていつのように駅に着くと、なんとなくいつものように自転車置き場に向かい、いつものように電車に乗って通勤したのだった。