ーOOO-ビビる大木さんのはなし

 先日の日曜日、TBSラジオの伊集院光・日曜日の秘密基地は、「お笑いどん底エピソードスペシャル」だった。
 各芸能プロダクションからお笑いタレントが登場して、自分のどん底エピソードを語る、と言うモノだったのだが。
 なかでも、ビビる大木さんの話が印象深かったので、思い出せる範囲で書き留めておきます。録音したわけでもなければメモを取ったわけでもありません。誤記があると思いますのでその点よろしくお願いしますです。


大木 「デビューしたころは、ビビるはコンビで活動していたんですよ。
 あるとき、『雪山に若手芸人大集合!』みたいなスペシャル番組の企画があってですね。
 で、まずオープニングで司会のヒトが『全員そろいましたね』みたいなことを言ったら、雪山の上の方からワレワレがソリに乗って『ちょーっとまったぁ!』って登場して欲しい、みたいな話になって。それも、勢いのある絵が撮りたいから、なるべく上の方から降りてきて、ギリギリまでブレーキをかけないで欲しい、みたいな話で。
 相方は雪国育ちでしたから『ソリなら慣れてるから』みたいな話だったんで、じゃあボクが後ろに乗るよ、と。
 で、相方にお任せして、ぐーっとしがみついていると、ソリがぐんぐんぐんぐん加速していくんですよ。怖いし背中にしがみついてるし、雪が舞い上がって真っ白だしで、まったく前が見えないんですよ。
 と、相方が『おい、やばいよ、とまんないよ、とまんないよ』って言うわけですよ。
 『とまんないよ、とまんないよ、とまんないよ!』
って、そのときドガーンってスゴい衝撃があってですね。
 何が何だかわかんないけど放り出されちゃったんですよ。
 テレビカメラや司会のヒトがいるトコの遙かに下の、スキー場のふもとのロッジの壁にソリが激突して、投げ出されたんです。
 『おい、大丈夫かッ!』って相方を見たら、彼は鼻血を出して雪が真っ赤に染まってるんですよ。
 こりゃいけない、助けなきゃっ、と思ったら、自分は立ち上がれないんですよ。動けないというか、カラダが動かせない。
 で、病院に運ばれましてね。
 即、入院して絶対安静ですよ。
 専門の先生にかかることになったので、相方とボクはそれぞれ別な病院に入院しましてね。
 ボクは、背骨を折ってたんですよ。
 カラダの前のほうに折れちゃっててですね。
 お医者さんには『後ろのほうに折れていたら一生下半身不随だった』って言われましてね。
 相方は、脳挫傷を三カ所やってましてね。
 意識不明なんですよ。
 入院してから三日目に、向こうの病院からこちらに連絡がありましてね。
 『正直、容態が良くなくって、今夜がヤマかも知れません』
って言われたんですよ。
 でも、ボクはボクでいま、病院で絶対安静なわけですよ。
 お見舞い一つ出来ない、顔さえ見に行けないわけですよ。
 その日の夜は本当にツラかったですね。
 いったいなんなんだ、と。」


伊集院 「その相方の方は、今はどうなさっているんですか?」
大木 「ええ、いまは元気でピンピンしてますよ。お笑いは止めてしまったんですけど、テレビ関係の仕事に就いています」
伊集院 「ああ、スゴくホッとしました。
 そういう大きな事故があって、それでイヤになっちゃって挫折した、とかそういうのじゃなくて、っていうかイヤになっちゃって不思議はないんだけど。
 でもお二人は、そういう事故の後も芸能界で頑張って、人気が出てきたなーっていうところで相方の方が止めちゃったじゃないですか。でも、テレビの仕事は続けているって言うのは、なんかホッとしましたわ」


伊集院 「大きな病気とかすると、人生観が変わっちゃったりするじゃないですか。
 ボクの場合は、ヘルニアで2ヶ月ぐらい入院したことがあるんだけど。で、自分の名前が付いている番組とかに穴を開けることになっちゃって、でも代理の司会のヒトがそつなく番組をこなしたりなんかして、そのときオレは
『ああ、オレなんかがいなくても、世の中は何事もなかったかのようにキチンと動いていくんだなぁ…』
みたいなことを、ひしひしと感じたりしたんですよね。
 大木さんの場合はどうですか?」
大木「人生観…。うーん…。
 あ、変わったって言えば、あのときからブラックジョークが一切ダメになりましたね。『面白いんだけど、なんかイヤなキモチになる』みたいなのはイヤだなぁ… って。
 だから、自分が笑わせるんなら、聞いてる人みんなが誰一人としてイヤなキモチにならないような、そんなギャグがやりたいなって思ってますけど」