ーOOO-指先の魔術師

 それなりに仕事が忙しくなってきたので、昨今は接骨院に通う頻度が増えているワタクシです。
 接骨院にはいろんな患者さんが来ますな。同じ接骨院に同じ時間に来る人はけっこう決まっているので、会話こそしないものの、何となく顔なじみになるものです。年齢層も患部も様々。
 職業病で慢性的なヒトもいる。スポーツクラブのインストラクターさんは、毎回全身がっつりと。ピアニストのヒトは、指先から肩まで。
 中学の部活の大会直前に、練習しすぎてヒザを痛めた子とか。頑張り過ぎたんだなぁ。一刻も早く試合に出してやりたいのが人情だけど、冷静に判断して待ったをかけるのも大事な仕事。がっかりする本人のしおれっぷりったら。んー、次はガンバレ!
 かとおもうと、「今日は腰が痛くないから、来たよぉ」なんておじいちゃんもいる。


 んでワタクシの場合は。
 和菓子屋は意外に力仕事の立ち仕事。前かがみで同じ姿勢をとることが多いので、腰に来るし、ヒザや足に来る。
 で、腰から足を重点的に揉んでもらっている。
 昨日はふくらはぎがガチガチだったので、そこを熱心にやってもらった。
 院長先生のスペシャルメニューは、アキレス腱の上のあたりから、ずぶり、と指を立てる。
 コレがチョー痛い!
 と、その上の部分に、次の指が「ぶすり」と。
 アキレス腱のあたりからヒザの真ウラまで、ふくらはぎをたんねんに「ずぶり」「ぶすり」とされます。
 ホントに痛いとき、ヒトはじたばたして床をバンバン手で叩きます。あたかもプロレスのギブアップのように。
「いやー、痛いですけど我慢してくださいねー」
 ずぶり。
「この治療は限られたヒトにしかやらないんですよー」
 …ソレは、喜んでいいんですか?
「もちろんですよ! あなたは選ばれし者なんですよ!」
 ずぶり。
 選ばれないほうがよかった…(涙目)


 ◆


 電気マッサージというか温熱治療の機械をしてもらいながら、なんとなく手持ちぶさたな感じで時間を過ごす。
 院内には今ドキっぽいヒット曲が流れる。ワタシは口ずさむでもなく、メロディーの歌詞を脳内で追いかけていく。
 と、隣で治療を受けている患者さんの指が、ピアノを弾くように動いているのが目に入った。
 その指の動きを追うと、歌詞の部分ではなくて、ピアノの部分のメロディーだった。
 「歌を聴いたときにワタシが歌詞をつい口ずさむように、ピアニストのヒトは指が動いてしまうんだなぁ」ということと、「歌を聴いたときにワタシは歌をメロディーとして追うけれど、ピアニストのヒトはピアノの部分をメロディーとしてとらえるんだなぁ」ということを思った。