ーOOO-そんな日だった
本屋で何気なく新刊の文庫本を手に取る。
何の気なしに読み始めただけなのに、あまりにもすいすいと読めてしまう。ハッと我に返り、その本を買うことにする。
薄い本だし一息で読めてしまうな、と思いながら電車に。
席に腰を下ろしたところで、iPodの電源が切れる。バッテリー切れらしい。
急に静かになる。
耳からヘッドホンを外すと、うわん、と外の音が響いてくる。あわてて耳栓代わりにヘッドホンを付けなおす。
しん、とする。
カバンから本を取り出し、集中して読み始めた。
すーっと物語が入ってくる。なんだか「わかる」気がする。自分が年を重ね、いろいろなことがあった分だけ、物語の登場人物に自分を重ねる幅が広がったようだ。読みながら、いろいろな「あの時の自分」を物語に重ねたりする。集中して読んでいるようでいて何処か集中していない。
地元の駅に着くまでに、スーッと読み干していた。
読み終わって、「読書って楽しいなぁ」と、思った。
正しく言うなら「この本は楽しいなぁ」のハズだし、というか楽しいコトばかりでなく、悲しいキモチにも、切ないキモチにもなっていたので、「この本は楽しいなぁ」の一言でバッサリ切ってしまうコトはできないのだけど。
でも、こんなふうに集中して読書したのは久しぶりだ。
行き当たりばったりで読書していると、「この本はまさにいま読むべき本だった」という経験をすることがある。こういう感じを何と説明すればよいのか。
駅を出て自転車を漕ぐ。夜の風は冷たくて、物語に酔った火照りを程良い感じに冷ましてゆく。
久しぶりに「読書って楽しいなぁ」と、思った。そんな日だった。