ーOOO-「RURIKO」

 林真理子が描く、浅丘ルリ子の半生記。
 映画が娯楽の王様だった時代のスターたち。石原裕次郎美空ひばり小林旭…スターの織りなす恋愛絵巻。それはスキャンダラスだけれど、どこか不器用で、真剣だ。
 やがてやってくるテレビの時代。映画斜陽の時代を、スターはどのように駆け抜けていったのか。本書は浅丘ルリ子の半生記であるとともに、映画の盛衰記でもある。
 有名なスター達の赤裸々な恋愛告白として読むのも面白いけれど、映画の舞台裏、女優が語る映画論として読んでも面白かった。

 今まで信子は、監督とつき合う女優たちをかすかに軽蔑していた。
 (略)
 しかし今ならわかる。二人きりの寝室での視線を、現場でこうして注いでくれる男がいる。これは女優にとって何という幸福だろうか。この男に任せておきさえすれば、自分はたとえようもなく魅力的な女に撮られるはずだった。

林真理子「RURIKO」p189-190

 こういう話は、実際にカメラの前で主役を演じた人間でないと語れない。当時大スターだったから言える話だ。
 それから、当時浅丘ルリ子と監督がつき合っていたというのは、周知の事実だったのだろうか? 女性週刊誌のゴシップ記事では語られていたんだろうか? しかしスキャンダルであることに間違いはなく、今だから言える話だ。


 しかし林真理子はこの作品について、9割8分は作家の想像の産物だと語っている。

「小説家、見てきたようなウソをつき、です。きっかけをもらったらいくらでもウソが紡ぎ出せないと作家にはなれません」

林真理子「RURIKO」 大スターのいた時代描く - asahi.com

「ルリ子さんもびっくりされたでしょう。小説家って、こんなに嘘(うそ)をつくんだ、と。これまでも伝記を書いてきましたが、ディテールは徹底的に調べるけれど、密室での会話などは作り上げるのが作法。美空ひばりさんが亡くなる前、ルリ子さんに電話をかけたことは聴きましたが、内容は聞いていません」

【週末読む、観る】著者に聞きたい 林真理子『RURIKO』- MSN産経ニュース


 9割8分はウソ…とはいえ、この作品を発表するにあたっては、浅丘ルリ子に原稿のチェックをしてもらっていると思うので、たとえウソであっても「書いちゃダメなウソ」「明らかな間違い」は存在しないのだと思う。
 スキャンダルの部分を開けっぴろげに書きつつも、浅丘ルリ子他の登場人物の名誉を守るためにあえて「ほとんどの部分は創作ですよ」と言ってるのではないだろうか?
 それとも林真理子は単なる聞き書きではなく、その想像力で真実以上の美しい物語を作り上げたので、「全くのフィクションの登場人物としてのスター浅丘ルリ子」を作り上げてしまったのだろうか?


 浅丘ルリ子はこの自伝の中でも「本当の素顔」を見せることなく、「スター」を演じ続けた。


林真理子「RURIKO」- amazon.co.jp