ーOOO-Arts Towada

 お盆は青森県十和田市に行ってきたですよ。 
 十和田市にこの春、「十和田市現代美術館」というのが出来たと言うじゃありませんか!
 アートなモノに敏感でセンスあるフリがしてみたい、ミーハーなワタクシとしては、見に行かずにおられようか!
 
 ここは十和田市の中心部、官庁街通り。街は碁盤の目のように十字に区切られています。
 左右に植えられた松は、松並木としての景観の見事さもさることながら、八甲田山から吹き下ろす冷たい風や吹雪から街を守る防風林としての役割もあるのです。
 美観と実益を兼ね備えたこの並木道は、日本の道100選にも選ばれています。
 
 道も広いんですが、歩道の部分もこーんな感じでメチャメチャ広い。無理すれば2車線ぐらい取れそうな感じなんですが。
 ゆったりと街並が作られています。
 
 どーんとある蹄鉄のモニュメント。
 どれが現代美術館かなーと思いながらキョロキョロ歩いていると、この街のあっちこっちにモニュメントがあることに気が付きます。
 
 歩道に唐突に、馬の群れが走っている様子の銅像が。
 十和田市は馬産地で、馬の街なのですな。
 
 走っている馬の足下を舞う落ち葉の部分もブロンズだった。芸が細かい。
 
 カエルと話している馬。
 こんな感じで、街中がけっこうアートにあふれている感じの十和田市なのですが、さて、現代美術館はどこなんだろう… と思っていたら。
 
 ひときわ浮かれた感じのモニュメントが、ドーンと出現!
 これだ!
 この浮かれっぷりは、現代芸術に違いあるまいッ!
 
 美術館の庭先の部分にドカーンと巨大な展示物があって、いきなり度肝を抜かれます。
 そのデカさを、周囲を歩いている人と比較して想像していただきたいんですが。
 美術館の周囲には柵があるわけでもなくて、唐突に「ボーン」とこういう感じのモノが存在している、と。
 それも単なる唐突ではなくて、車道側から見れば松並木で覆われているし、歩道から見るとちょっと奥に引っ込んだ芝生の上にあるので、「唐突にボーンとある」「町並みから極端に浮いている」という感じではないです。
 アートと街並みの境目が、ゆるやかなグラデーションになっている感じ。
 
 さらに一部の展示物は、巨大な窓ガラス越しに眺めることが可能。
 お金を払わないでも、けっこうあれこれ展示物を見ることが出来ます。
 街に開かれた、溶け込んだような美術館です。


  
大きな地図で見る


 中に入ってあれこれ見るのも面白かったんですが、とにかくこの美術館の特異な点は「街並みに溶け込んでいる」開かれた美術館だ、という点です。


 

↑ 十和田市現代美術館の来館者用リーフレットより転載

 この美術館でワタシが一番気に入ったのは、喫茶店でした。
 正方形の一面に巨大な窓ガラスがついた建物は、交差点に斜めに面している。
 上の写真だと、右手前にある建物です。


 ここにいると、正面の交差点が見える。
 それは、この建物の設計者が意図した「見せたい景色」でもある。
 行き交う人の波。
 信号を待つために立ち止まり、青になると目的地に向かって去っていく車の流れ、人の流れ。
 ワタシはそれを、建物の中で座りながら眺めている。
 動と静。
 建物の中と外では、全く違う時間が流れている。


 ガラスの少し上に目をやる。
 正面の交差点の向こうには、松並木と、その向こうにNTTの局舎が見える。
 屋上には鉄骨むき出しの巨大なアンテナがある。
 これもまた、この建物の設計者が意図した「見せたい景色」。
 巨大な鉄骨は、装飾的な要素が一切無い、実用的なモノが持つ美しさを醸し出している。このアンテナもまた、現代芸術であるとは言えまいか?
 巨大なアンテナと、手前の松並木の落差。人工物と自然の対比。ここに着眼しても面白い。
 巨大なアンテナは、目には見えないけれどたくさんの人の声をつないで届ける「交差点」である、とも言える。目の前の現実の交差点と、アンテナという名の目に見えない交差点と。この対比も面白い。


 交差点に立っている人が、こちらに向かって写真を撮る。
 そう、この喫茶店は美術館の建物の一部。
 この喫茶店それ自体も、現代芸術の一つ。
 外から眺めれば、喫茶店の中でコーヒーを飲んでいる人は「展示物の一部」なのだ。
 いまワタシは、「展示物の一部」と化している。
 しかし、外から写真を撮っている人はまた、建物の設計者が意図した「見せたい景色」として切り取られている。
 喫茶店の中にいるワタシから見れば、外に立っている人は「展示物の一部」。


 まーそんなかんじで。
 普通の街並みと美術館が地続きになっている感じを一番体験できるのが、この喫茶店なのではないか、と。
 作者が意図したのかどうかわからないけれど「こういうことかっ!?」って妄想を炸裂させまくって、「うーん、深い!」とか1人でうなずいて、ものすごい楽しかったです。
 で、そういう気分をひきずりながら街に出ると、見るものが違って見えるような、フツーの街並みがフツーに見えなくなって「これも芸術!?」「あれも芸術!?」みたいな目線になれて、しばらく楽しかったです。
 写真は撮れなかったんだけど、スポッと切り取られた風景として美術館の駐車場の隙間から見えた、隣に立っている消防署の訓練施設なんかはまさに「アート」な感じがしたですよ。

 十和田市ではより魅力的で美しい官庁街通りの景観を作り出すとともに、未来へ向けた新しいまちづくりの一環として「Arts Towada」計画に取り組んでいます。
 この計画は官庁街通りという屋外空間を舞台に、通り全体をひとつの美術館に見立て、多様なアート作品を展開していくものです。このような取り組みは世界でもまれな試みです。

http://www.city.towada.lg.jp/artstowada/architect/index.html

 街なみの全てがひとつの美術館、という試みはまだまだ続いていて、平成22年に美術館の全ての施設が完成し、そこからさらに何かが広がっていくようです。
 Arts Towada… なんだか不思議なプロジェクト。
「なんで十和田に現代美術館が建ったのさ?」と思っていたけれど、まさか通り全体がひとつの美術館になるプロジェクトだとは。
 世界でもこの街にしかない特別な美術館として花を咲かせたようです。
 今度十和田に行ったときは、あの通りに何が起こっているんだろう? またあの喫茶店でのんびりしたいなー。