ーOOO-拾う神あれば

 実家にいる父の最近の趣味は、散歩だ。
 健康のためにと始めたんだけど、いろいろな道を通って近所を歩くのは意外な発見があって面白いらしい。
 良くすれ違う人と挨拶を交わすようになり、知り合いがちょっとずつ増えてきているらしい。


 最近知り合ったのが、高校の前で野良猫にエサをやっている老婦人。
 老婦人は「こないだ中から先生が出てきて『野良猫にエサをやらないでください』って怒られちゃったのよ。」と嘆く。
 そりゃあまあ、ネコが学校の中で粗相をしたり、いろいろ大変な部分があるんじゃないかなぁ、学校の先生の言うのにも一理ある、と父は思う。
 その時、学校の中で女の子が野良猫をひょいと抱きかかえて、アタマをなで始めた。わいわい友達が集まってきて、代わりばんこにネコを可愛がり始めた。
 そんなシーンを見ていると、野良猫を可愛がるのが悪いことだとは思えなくなる。
 
 いろいろ話を聞いていくと、老婦人は数年前にご主人を亡くして、生活に張りが無くなったときがあったのだという。そんなとき、彼女の心をいやしてくれたのは野良猫たちで、「ネコたちも頑張っているんだから、自分も頑張らなくっちゃ」と思えたのだという。
 それ以来、ここにきてネコたちにエサをあげている。
 食べ飽きないように、いろいろなキャットフードを日替わりで持ってくる。
 時にはネコたちを病院に連れて行って、去勢や避妊の手術を受けさせる事もあるのだという。もちろん老婦人の自腹でだ。
 そこまで行くとフツーじゃない。それが正しい行為なのかどうかは良くわからないし、何もソコまでしなくても、と思う。けれど決して無責任な人ではないし、覚悟が違う。ちょっと真似できない。


 そんな話をしていたら、自転車に乗った老人がソコを通りすぎざまに「こんにちは」といった。
 父はその人を知らなかったが、「こんにちは」と挨拶を返した。
 なぜか老婦人は挨拶しない。
 自転車はそのままずっと通りすぎていってしまった。
 すっかり見えなくなってから、老婦人は忌々しげに
「あのおじいちゃんはね、野良猫を捕まえては保健所に連れて行くのよね」


 拾う神あれば、捨てる神あり。
 野良猫を取り巻く環境について、色々考えさせられた父なのであった。