ーOOO-ちいさなちいさなルーブル美術館×2

 2008年が日仏友好150周年だったということもあって、今年の春は東京で2つの大きなルーブル美術館展が開かれますね。

 しかし、いま開催されているルーブル美術館展は、これだけではないんです。
 三鷹の森ジブリ美術館では「小さなルーブル美術館」展というのが開かれています。

 えっ、なんでジブリ美術館ルーブル美術館展を?
 その企画発案から展示プランが決まるまでの経緯、そして実際の展示の模様について、ジブリ美術館館長が語るトークショーが行われたので、大日本印刷五反田ビルにあるルーヴル – DNPミュージアムラボに行ってきました。

ジブリ美術館の「小さなルーブル美術館」展

 「小さなルーブル美術館」展の企画のねらいは、なるべくたくさんの作品を子供たちに見せてあげたい、ということだったそうです。
 小さなルーブル…プチ・ルーブル。この「プチ」は小さいという意味ですが、「子供の」という意味もあるのです。「小さなルーブル」「子供のルーブル」をキーワードに企画は発案されました。
 本物のルーブル美術館は、世界最大規模の美術館。あまりにひろくて、1日ですべての作品を見て歩くことは不可能ですし、早歩きでは一つ一つの作品をじっくりと鑑賞することが出来ません。
 そこで、ルーブル美術館の美術品群をちいさなジブリ美術館で展示するために、約40%の大きさに縮小したレプリカ作品を壁一面に並べて展示したのだそうです。
 このことは、たくさんの作品を展示するという目的以外にも効用をもたらしました。


 まず、小さいので非常に見やすい。
 実際の作品群は非常に大きな、見上げるようなものが多く、遠く離れないと全体を見ることが出来ません。ルーブルで最も大きな作品「カナの婚礼」は、10m×6.7mもあります。それが、ほどよい大きさに縮小されたことで、それほど離れなくても全体を見渡すことができます。
 もちろん近づいてみても楽しむことが出来ます。大日本印刷が精細な印刷で再現したレプリカの絵画に、絵筆のタッチを表現するために表面にはメディウムが塗ってあります。さらに、絵画の額縁も本物と同じデザインのレプリカを作成しました。このため、近づいてみれば本物そっくりに再現された精密な絵画を楽しむことも出来るのです。
 実物の5分の2という縮小は、絵の全体を見渡すにも近づいてみるにも、ちょうど良いものとなったということです。


 それから、一度にたくさん並べたことで、絵画の歴史を一望することが可能になりました。
 今回の展覧会では展示室を2つに分けてあるのですが、そのうちの「フランス絵画の間」には16世紀から19世紀までのフランス絵画を中心に展示してあります。
 年代順にならべたことで、ルネサンスバロックロココ新古典主義ロマン主義写実主義という絵画の様式の流れを、目で見て感じることが出来ます。


 先ほど「展示室を2つに分けてある」と書きました。
 もう一つの展示室のテーマは「廃墟の間」。
 ルーブルはパリを守る城郭として作られ、王宮だった時代もあったのですが、ヴェルサイユ宮殿の設営の頃に国王に見捨てられ、さびれて荒れ果てた時代もあったのです。
 「小さなルーブル美術館」展を開くに当たり、「ルーブルの長い歴史」を紹介するとともに「知られざるルーブルの姿」を紹介するという、意欲的な展示となりました。


 館長さんのお話をうかがうと、小さなルーブル美術館展を開催するにあたり、いろいろな苦労や試行錯誤があったことがわかりました。
 しかし、ジブリ美術館の実際の展示物には余計な作品解説がはずしてあります。これは、展示された絵画に予備知識なしに対面してもらいたいから、と考えたからなのだそうです。


 実際にジブリ美術館で展示をしてみたところ、子供たちはあるがままに作品を受け止め、気に入った作品の前で黙って足を止めて眺めていることが多いそうです。
 また、わいわいガヤガヤとにぎやかにおしゃべりしながら作品を見る風景は、よその格式張った美術館では考えられないことで、「これはジブリ美術館ならではの光景です」と館長さんは胸を張ります。
 気軽に身近に本物の絵画に触れて、多くの人に美術に関心を持ってもらうという試みは、見事に花を咲かせたようです。

DNPミュージアムラボの「小さなルーブル美術館」展

 さて、今回会場となったDNPミュージアムラボさんですが、こちらでは現在「ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》 問い直された観る人の立場」展というのが開催されています。
 これは、ルーブル美術館に収蔵されているファン・ホーホストラーテンの《部屋履き》という作品の展覧会です。
 これ、たった1枚の絵「だけ」の展示会なんですよ。
 で、ワタシはファン・ホーホストラーテンなんて知らないし、《部屋履き》って絵も地味だなーと思ったんだけど、せっかく来ちゃったんだから展覧会を見ていこうかなーと思ったら、これが面白かったんですよ。


 展示されているのは、たった一枚の絵。
 しかしそれを、インタラクティブな装置に触れながら様々な解説を聞いていくうちに、1枚の絵が重層的にいろいろな解釈が出来ることに気がついていくのです。
 たとえば絵の視点を変化させたり、絵の中の光源を変化させたりすることができました。これによって、絵の持つ意味が違って感じられます。作者がどんな意図をもってこの絵を描いたのか、思いを巡らせることとなります。


 会場の入場時には、TouchDiamondというPDA骨伝導ヘッドフォンを付けたものが貸し出されます。様々なディスプレイの前に立つと、その周辺でだけ解説音声が自動的に流れる仕組みです。
 このヘッドフォンのおかげで、会場はシーンとしています。また、骨伝導ヘッドフォンなので耳をふさがれることもなく、友人同士で来た来館者は、お互いに自由に会話を楽しんでいました。
 また、場内の巨大タッチパネルディスプレイは、触って解説を読み進めることが可能です。
 会場を埋め尽くす様々なハイテク機器。
 そう、ここはミュージアム「ラボ」。
 全く新しい美術館のあり方を研究する実験室でもあるのです。

2つの「小さいルーブル美術館

 ジブリ美術館DNPミュージアムラボ。この2つの「小さいルーブル美術館」展のアプローチは違ったものとなりました。
 ジブリ美術館では、絵を小さくして多くの作品に触れてもらい、余計な解釈を付けずに思うままに作品に触れて欲しいというアプローチをとりました。
 かたやDNPミュージアムラボでは、たった1枚の絵に焦点を絞って、たくさんの解説を付けて深く作品に触れてもらうことを目指しました。しかし、来場者をガチガチに縛るようなものではなく、多様な解釈を示して見せたことで、1枚の絵に多くの意味を読み取る可能性を持たせました。
 2つの美術館は、「小さい美術館」であることを最大限にポジティブに生かし、角度は違えど見せたい部分に的を絞った展示を行いました。


 さて、この春ひらかれる2つの「大きなルーブル美術館」展は、どのようなものになるのでしょうか?
 実は最初はルーブル美術館にあんまり興味がなかったんですが(←えー!)、この春ルーブル美術館展がやってくるのが非常に楽しみになってきたワタクシなのでした。