ーOOO-しゅうまつしそう

 木曜日の話なのだが、いつも愉快な弊社の同僚が、珍しく仕事中に自宅に携帯電話をかけていて、珍しく困ったような難しい顔をしていた。
「今ウチから電話があったんだけど、ウチの娘、新型インフルエンザに感染したって」
 ソレは大変だねぇ、お大事に…とみんなで気遣った。
 そして金曜日。
 同僚は会社を休んだ。そして、「オレも新型インフルエンザにかかっちゃった…」と、苦しそうな声の電話がかかってきた。
 ちょ、伝染力、高っ!
 弊社のみんなも動揺する。
「なんか、ちょっと、オレも頭が痛いような気がしてきました…」
「ゴホンゴホン! なんか妙にノドがいがらっぽいような気が…」
 みんな自分が新型インフルエンザにかかったような、そんな妄想にとりつかれている。


 かく言う自分も、仕事が終わったら妙に身体が疲れた。
 この異常な疲れは…? まさか、インフルエンザ?
 帰りの電車の中で、くしゃみをしそうになる。 まさか、インフルエンザ?
 とにかく帰り道に、なにもかもがかったるくなる。まさか、この疲れは…?
 めんどうくさくなって、布団に横になる。寒気がする。まさか…?
 ほんとうにうんざりして、テンションがどんどん下がっていく。


 その日の夜の金曜ロードショーは、天空の城ラピュタだった。
 身体が芯から冷えている時に見るラピュタからは、爽快感がかんじられなかった。
 うんと高い空を飛ぶ飛行艇のちょっとした手すりにつかまっているシーンなんかは、ふだんは気にならない程度にヒヤっとするシーンだけど、身体が冷え切っているときに見るとゾッとするほど怖かった。「こんなシーンがあったのか、怖い!」って感じ。
 雲の上にひょいっとちいさなグライダーで出るところ。龍の巣に突っ込むシーン。そのほかそのほか。ふだんならスカッとする高度感あふれるシーンが、ゾッとするほど怖い。
 高い空を飛んでいるときの画面の中の寒さが、底冷えする現実の寒さの中で、心底自分の身に染みる。
 見ているこちらがわのシチュエーションによって、画面から受ける印象が大きく変わるなあということを身体で感じた。
 その夜は心底カラダが冷えて、ガタガタ震えながら寝た。


 気がつけば朝。クシャミも出ない。熱もない。
 今日も会社に行って、元気に仕事をしてきた。
 ちょっと同僚が新型インフルエンザにかかったからって、「自分もそうなっちゃった」と思い込んじゃうなんて、バカだよなぁ。
 第一、バカは風邪引かないって言うじゃんか。