ーOOO-ねこなで

 あったかくなってくると、街にネコの姿が戻ってくる。
 ちょっと暖かな日に、全身に太陽の光をいっぱい浴びながら目を細めてぬくぬくしている姿を見ているだけで、なんだかこちらもホカホカしてくる。
 ワタシが最近仲良しなのが、近所にある小さな薬屋さんのネコ。
 と言っても、その薬屋さんで飼ってるのかどうかはわからない。
 帰り道に見てみると、ヤツはたいてい薬屋さんの自動ドアのマットの上にポトリとまんまるくなっているのだった。
 白黒ぶちのまるまるしたネコ。毛なみがモサモサしているので飼い猫ではなさそうだ。だけど、もったりした腹回りを見ると、食うのには困ってなさげ。おっとりとして愛嬌が良いから、きっとうまいことやってるのに違いない。
 ヤツは招き猫とか看板ネコとかそういうたぐいじゃない。お店で買い物するためには、ネコをどかさなければならない。だけどヤツはでーん構えていて、ちっとも動く気配がありゃあしない。はっきり言って、商売の邪魔なのだ。
 だけどヤツは愛嬌がいいから、薬屋さんのおばちゃんとも上手いことやってるのにちがいなかった。
 ちょっと立ち止まって様子を眺めていたら、ヤツはくるんと首をこちらに向けて、「あれ、アナタ、だれでしたっけ?」みたいな顔をする。
 それから重そうな身体でよっこいしょと立ち上がって、のそのそこっちに寄ってくる。ワタシがしゃがんで手を出すと、くんくんニオイをかぐ。
 アイツはバカだから、ワタシがエサを持っていないことを学習してないのだ。
 ごめんごめん、エサは持ってないんだ。
 えーっ…という感じの、いつもの残念顔。
 だけどヤツは頭をごりごりこすりつけてくるし、ワタシの足の間で8の字を書いてくるくる回ったりして大歓迎するのだ。とにかくヤツは愛嬌が良いのだ。
 そんでもってオイラもバカだから、ただネコをなでていると幸せなのだ。


 この街は最近、「ネコにエサをあげないでください」という張り紙がたくさん張り出されるようになってしまい、めっきりネコとネコ好きには冷たい街になってしまった。
 野良ネコに餌付けするネコおばさんはいかがなものかと眉をひそめるワタクシだったのだが、いざネコおばさんが街からいなくなると、街からはだんだんとネコの姿が消えていって、それはなんだかさびしい気分だった。
 ワタシはネコにエサをあげてるわけじゃないのだが、このへんでネコを可愛がっていると、何だか冷たい視線を感じるのだ。


 ワタシは毎日薬屋さんの前を通るわけではない。
 薬屋さんの前を通りかかっても、雨が降っていればヤツはいない。
 晴れてる日には、気まぐれにどこかへ散歩していることだってある。
 そういうわけで、いつもの場所でヤツを見かけるのは、それなりに条件が重ならないと発生しない、貴重な「いつものこと」。
 いつもの場所でヤツを偶然見かけて、なおかつ周りに誰もいないとき、ヤツとオイラはほんのひととき、密やかな逢瀬を楽しむのだった。