ーOOO-衣替えは苦手です

 こないだまで関東地方は寒くて、桜が咲いたというのに雨が続いたり、雪が降ったり。冷たい北風が吹き荒れていたので、ワタシはずっと長いコートを着てすごしていた。
 ゴールデンウイークになったあたりで急に陽気が暖かくなってきた。
 北風と太陽の童話なら、ここで旅人がコートを脱いで話は終わりだ。
 しかし、コートを脱ごうとしないワタクシなのだ。
 だって、ロングコートだと楽なんすよ。朝、「何を着ようか?」とか悩む必要ナッシング。とりあえずザッと着ちゃえば何とかなるし。会社に着いたら白衣に着替えちゃうんだし。
 しかし今日の関東地方は夏日。照りつける日差しという名の暴力に屈するオレ。…ちくしょう、…太陽め。
 仕方ない、何か服を買おうかな。
 そういえば家の近所にg.u.があったっけ。ゴールデンウイークのショッピングモールは混みそうだから、家の近所で手近に済ませてしまおう。


 今でこそg.u.はマルイに店を出したりしているが、昔は得体の知れない店だった。
 g.u.はUNIQLOの低価格ブランドで、ぶっちゃけ安かろう悪かろうの店だと思っている。「これよりセコいとクレームが来る」という低めいっぱいの高品質と、「ま、安いんだから仕方ないか…」と思わせる低価格。
 「まあ、安いからいいか…」と思いながらワタシは何度か買い物に行っていたのだが、あるとき知り合いに出くわしてしまった。
「…あ。」
「ああ。」
「どうもどうも」
「あ、あなたも?」
「ええ。あなたも?」
「ええ。」
「ああ。」
 自分は今、ものすごい安売りの洋服を買いに来ている、ということを知られてしまった!
 しかも相手も同じ服を買おうとしている!
 独特の恥ずかしさに、背中にじっとりと嫌な汗が出る。
「じゃ、また。」
「ええ、また。」
 それきりワタシは、そのg.u.に行くことはなかったのだった。


 あれから何年たっただろうか。
 ワタシがこうしてg.u.に来るのは久しぶりのことだった。
 郊外型のg.u.は広い敷地に大きめの駐車場を持ち、ちんまりと店が建っている。しかし決して狭いとは言えない立派な店構えだ。
 そんな店の中の3分の2はレディースの売り場だ。
 で、さらに靴やらカバンやらのタナがあるので、メンズのタナはお店全体の4分の1くらいしか無いのだった。
 「靴やカバンの売り場は男性にも関係あるんじゃないの?」という考え方もあるだろう。
 それを言うなら靴やカバンは女性にだって関係ある。だからお店の3分の1は男性向けで、4分の3は女性向けである、と言えるだろう。
 ついでに言うと男性向けのスニーカーを女子が履いても変じゃないけれど、パンプスやミュールは男性に履けないから、靴売り場だって2対1くらいの割合で女性向けだと考えるオレなのだった。


 んで、その男性向けフロアの半分は、現在g.u.イチオシのスポーツウエアというか、速乾性素材というか、ビニールのツルツルしたような服が並んでいる。これはこのg.u.の近所にスポーツクラブがあるから、特別にそうなっているのだろうと思う。しかしこれはちょっと普段着とか通勤向けじゃないだろう。
 それから、ジーンズとチノパンの棚だ。これは売場面積は広いのだが、選択の余地が少ない。選択肢は「スリムストレート」とか「ストレッチ」といった素材・デザインが4種類。色がジーンズ色、黒、カーキの3色。そしてあとはウエストサイズが各種。だから、棚の広さのわりに選べるアイテムが少ないのだ。
 さらに、プリント柄Tシャツ。今期のg.u.はディズニーキャラクターの柄で押すみたいなのだが、男性でコレを着こなせるのは所ジョージぐらいではないだろうか。
 フツーのシャツの棚もあるにはあるのだが、色柄が突飛だ。パキーンとした色味のシャツを着こなせるなら苦労しない。目がチカチカするような色味のシャツを除くと、「買ってもいいかな…」と思える色はせいぜい4種類くらいなのだった。
 で、あれだけ広い店内なのに「買ってもいい」と思えるアイテムは、ほんの数点なのだった。


 広い店内を隅々まで歩いて、買いたくなるアイテムがこの店にないことを確認。
 しかしそれでも何か服を買おうと考えて、最終的にジーンズを買って、裾上げをしてもらった。
 工賃300円、待ち時間30分。
 しかしその待ち時間の長いこと長いこと。
 これがショッピングモールの中の店なら、本屋なりスタバなりで30分つぶせるだろう。
 しかしここは郊外型のg.u.。
 店のまわりは駐車場で、店の敷地から出るのが一苦労。
 左右隣にはガスト、牛角。向かいはガソリンスタンド。
 手近にヒマを潰せる場所がない!
 さらに、g.u.の中は隅々までチェック済みなので、ワタシにとって買いたいモノが皆無の状態。
 うわ、手持ち無沙汰。なにをすりゃぁいいんだ!
 で、なんとか時間を潰すために、店先に貼ってあったチラシを表裏とっくりと眺めたのだった。


 洋服を買うのは苦手だ、という思いをますます深めたワタクシなのであった。