ーOOO-赤とんぼ

 馬鹿に蒸し暑い梅雨が続く。
 天気予報はいつだって「曇り時々晴れ、ところにより一時雨」で、なんだか頼りない。
 分厚く垂れ込めた雲の切れ目からは、強烈な日差しが容赦なく照りつける。身体には時々ポタリ、ポタリと雨粒が付き、すぐに乾いていく。
 なるほど、これはたしかに「曇り時々晴れ、ところにより一時雨」と予報するしかないわけだ。


 仕事の合間にふと空を見たら、季節外れの赤とんぼが飛んでいた。
 異常な陽気に調子を崩し、一匹だけ羽化してしまったんだろう。
 赤とんぼは空中で時々止まりながら、つーい、つーいと空を飛んでいく。
 それは自由を謳歌するというよりは、「さて、どこにいったらいいんだろう…」と、自由をもてあまして途方にくれているように見えた。
 季節外れに羽化してひとり、仲間にも会えず、恋人に出会うこともなく、そのまま死んでいくのだろうか。
 季節外れの赤とんぼが背負った孤独の重さに、ぞっとした。


 赤とんぼはスーッと空を目指し、しかし迷ったように空中で止まる。
 その瞬間、スズメが突っ込んできて空中で赤とんぼを捕らえ、飛び去った。


 後には何もなかったかのような空。
 曇り時々晴れ、ところにより一時雨。