ーOOO-ジョブチェンジ

 ウチの会社は和菓子屋なのだが、その昔、
「ホントは自分は甘い物が苦手だから」
と言う理由で会社を辞めちゃった人がいた。
 ウソのようなホントの話。
 かとおもえば、
「沖縄で空手の修行をして格闘家になるから」
という理由で会社をやめちゃった人もいた。
 その話が信じられない後輩君は上司に「ソレ、ホントですか?」と質問。
「うん、いたいた。ホントにいたよ。
 もっと昔はホントにいろんなヤツがいたっけなぁ。
 終戦直後の集団就職で一緒に上京したヤツの中には、『オレはジャズをやるんだ』って、和菓子屋を飛び出したヤツがいたっけな。もっとも、アイツは楽器が弾けなかったんだけどよ。とにかくジャズが流行ってた時代でな。
 それから『オレは湘南に行って太陽族になるんだ』って言って、夜逃げしたヤツがいたっけなぁ。あのころは石原慎太郎の小説で『狂った果実』っていうのが石原裕次郎の映画になってなぁ。あのころの裕次郎はカッコ良かったから」
−− その人たちは、和菓子屋をやめた後は、どうしてるんでしょうね?
「さぁなぁ。なにしろ、辞めちゃったヤツだから。連絡とかとれないし。
 あ、そういえば会社辞めて、宗教始めちゃったヤツなら知ってるぞ。
 そいつは小さな宗教法人を起こして、寺を建てちゃった、ってよ」
−− えーっ! 和菓子屋から転職して教祖様ってすごいですね!
「とんでもない、教祖様なんかじゃないよ。
 なんか、ピンと来ちゃったらしいんだな。『ワタシは神様だ』って言いだして。
 アイツ、神様になっちまったんだよ。
 あの時代は新興宗教のブームがあって、日本中でポコポコと宗教が生まれててなぁ。アイツ、ブームに乗って上手いことやったんだよ」
ーー 会社辞めて神様に転職って…。すごすぎて、マネできないッスねぇ…。