ーOOO-大きいサイズの生ビール

 クソ暑いのにあちこち歩き回った日の、夜。
 疲れて身体が重かった。
 どこかで座って休みたかった。
 身体からは塩を吹き、シャツが白くなる。
 何しろ喉が渇いていた。
 よく冷えたビールを、キューッと飲みたかった。


 ちょっと背伸びして、ちょっと小洒落たお店に入る。
 店内は涼しくて汗が引いたが、緊張感で別種の汗が出る。
 店からの眺めがよいので、おちついて一人で飲むには良さそうだ。
 まずはメニューを吟味。
 なにしろ小洒落ている店だから、ビールだってスーパードライとか一番搾りは無い。
 ハートランドとか、あとは聞いたこともないようなビールが置いてあった。


「何に致しましょうか?」
 ウェイトレスさんが微笑む。
ハートランドの…」と言いかけて、メニューに「L」「S」と書いてあるのが目に入る。
ハートランドの、L」
「かしこまりました」


 注文を受けたウェイトレスさんがキッチンに戻り、他のウェイトレスさんとヒソヒソ話をしているのが聞こえた。
「ビールのLだってwww」
「え、Lビールって!?wwwww」
 そしてウェイトレスさんは、高らかな声でキッチンにオーダーを入れた。
「オーダー入りまーす。大生、ワン!」
 ちょ、大生って!
 なんだい、大生って注文すりゃぁ良かったのか…。
 小洒落たお店に入って、場の雰囲気に飲まれたオレの負け、ってヤツか…。
 よく分からない敗北感に包まれながら飲んだビールは冷たく、ホロ苦かった。