ーOOO-拾得物件権利放棄

 それは会社の帰り道のこと。
 ワタシは駅前で500円玉を拾ったのです。
 道のド真ん中に「キラーン!」と、かつ堂々と、なぜか誰も手をつけない状態でソレはあったのです。
 え、あれっ?
 何気なくヒョイッとしゃがんで拾ったら、
「あの人、拾ったよ!」
「アイツ、取ったぜ!」
と、周囲のヒトが指を差しているような…。
 そして、拾い上げて立ち上がると
「アイツ、ネコババしようとしてるぜ!」
「持ってっちゃうんだ!」
と、鋭い視線を投げかけてくるような…。


 実際には何も言われなかったけどね。
 でも、ついうっかり落ちている500円を拾ったばかりに、ワタシはなんだかすごく後ろめたい気分に。
 だから、拾った500円をポケットに入れることなく、手の中に握りこむこともなく、指先でつまむようにして持ってあるき、
「オレはネコババするつもりじゃないんだよーっ、と」
と無言でアピールしながら、交番へと向かったのでした。
 いやしかし、500円玉を拾うということが、あんなに気が重いことだとは思わなかったな−。


 交番では、話し好きそうな親切そうなお巡りさんが担当でした。
 一通り話を聞くと、
「なるほどなるほど。では、この500円は拾得物という扱いになりますね。ところで、お時間はありますか? 『拾得物件預り書』という書類を書く必要があるんです」
 拾った場所、時間、ワタシの氏名住所電話番号などなどを書き込んでから、
「3ヶ月を過ぎたら、この500円があなたのものになる権利があるんですが、どうされますか?」
 …え、そうしない場合はどうなるんですか?
「その場合は、この500円は国庫に入ることになりますね」
 ちょっと悩んだのだが、拾った瞬間に「自分のポケットに入れない!」と決意した意志の流れから、「じゃあ、国庫に入れてください」と答えました。
 あとついでに、落とし主が現れた場合にお礼金をもらう権利も放棄したけれど、連絡が来る権利だけは取っておくことにしました。
 これは、『権利放棄の申告』という欄で「一切の権利を放棄」にマルをつけて、『氏名等告知の同意』という欄で「告知希望有り」にマルをつけてやればいいのです。
 ちょっとめんどくさい手続きみたいに書きましたが、実際には書類を書くのは5分くらいのモノでした。


 ところで帰りの電車のホームでは、前を歩く女の人が100円玉を落としたので、それを拾って渡してあげました。
 なんだか拾いもの運のある一日だったなぁ。そんな日もある、うんうん。