ーOOO-「大河ドラマの呪い」とは … 三度も大河ドラマの舞台になった街の話

 観光地の和菓子屋に勤めているワタクシ。観光の誘致とか街おこしとか言ったキーワードには非常に敏感なワケですが。
 一口で観光名所と言ってもいろいろありますね。景色が美しい。お寺などの建物が有名。食べ物が有名。お祭りが有名。などなど。
 そして全国には、戦国時代を切り口に街おこしや観光誘致を行っている地域があります。
 つい先日、戦国時代をテーマにして街おこしを行う地域が集まった会議が行われました。それが、セガアーケードゲーム戦国大戦」のイベントの中で行われた「戦国カンファレンス」なのです。
 

 いろいろなメディアでも取り上げられていますので、そちらもご覧くださいね。


 で、この席上、ワタシがいちばんビリビリっときたのが、長浜市産業経済部観光振興課の北川賀寿男さんのお話だったのです。

 長浜市は今年の大河ドラマ江〜姫たちの戦国〜」の主人公、江の出身地です。ということで長浜市は今年の大河ドラマの舞台なのです。
 また、長浜城は秀吉が造った…ということで大河ドラマ「秀吉」の舞台に。さらに、山内一豊長浜城主に…ということで「功名が辻」の舞台となったことがあります。

 長浜は、三度も大河ドラマの舞台になった地なのです。
「長浜の大河ドラマの誘致のコツは『果報は寝て待て』なんですよ」
と謙遜する北川さん。しかし、よくよくお話をうかがうと、そこには多くの苦労があったようなのです。

歴史を掘り起こせ!

 功名が辻がドラマ化された時には「なぜ長浜が舞台になるのか?」という部分があまりピンと来ていなかった、という北川さん。そこで歴史の勉強をして、ようやくわかってくる部分があったということです。
 功名が辻が終わった後、「長浜にもう一度大河ドラマを呼びたい!」ということで、さまざまな歴史の文献に当たったそうです。
 
 そこで行き着いたのが、浅井三姉妹
浅井三姉妹と言えば、正直なところ茶々しか知らなかったのですけれど。しかし調べれば調べるほど面白い。この三姉妹から繋がる豪華な人脈図。浅井家を勉強するだけで、戦国時代が一望できる。姉妹ゲンカが日本全国を巻き込む戦いになってしまうような。
 なぜ江がいままで有名でなかったのか、そのことにびっくりしました。
 そこで、浅井三姉妹をテーマにして街おこしを行い、10年計画で大河ドラマに取り上げてもらおう…と思っていたところ、予定よりも早く取り上げられた、という感じなんです」


 歴史上の人物が「なぜ知られていなかったのか?」ということに関連して。
 坂本龍馬って、昔はこんなに有名じゃなかったらしいって、聞いたことありますか?
 幕末から明治維新にかけての偉大な人と言うと、昔は「なんといっても西郷隆盛」だったという話なんですが、今では「西郷隆盛坂本龍馬、どちらが人気がありますか?」 と聞くのも変なぐらい、坂本龍馬の方が人気がありますよね。
 歴史上の人物も、現在の時代背景によって人気が変わってしまうものなんですね。
 それから、埋もれている歴史上の人物もまだまだいるはずです。
 「観光資源」というくらいですから、金や銀と同じで、野山に眠らせておいたのではダメなわけです。掘り起こして、磨き上げて、資源は生かされる訳なのです。

大河ドラマの呪い」とは

 北川さんに言わせると、大河ドラマの舞台になった街は「大河ドラマの呪い」を受けるのだそうです。それって、どんな呪いなんでしょうか?
 観光地は、大河ドラマで取り上げられたその年は良いけれど、次の年には閑古鳥が鳴いて、街のみんながそれで燃え尽きてしまう事が多いのだとか。
 だから、大河ドラマを誘致するという一点だけを目標にしていたのではダメなんだそうです。
 コレ、大河ドラマが三度来た街ならではの、リアルな意見ですね。


 ワタシも似たような意見を持っています。
 テレビや映画の舞台になると、その街は人気の観光地になるんだけど、番組が終わると閑古鳥が鳴いちゃう。
 で、怖いのは、「お客さんが来ないのはドラマが終わっちゃったからだ」と思い込みすぎること。お客さんが来ない本当の理由は「味が落ちたから」かもしれないのに。
 ブームが来ている時に、慢心せずにふんばって、お客さんをつなぎ止める努力をして、リピーターを増やそうと努力しなきゃダメなんですよね。


 では大河ドラマが去っていった後、北川さんの長浜市ではどのような取り組みをしたのでしょうか?
 それは「もう一度大河ドラマを呼ぼう」という努力でした。「すぐに来るはずがない」とあきらめずに、いろいろと文献にあたって、浅井三姉妹を掘り起こしました。
 浅井三姉妹の物語の中では、近隣の多くの街が舞台となっていました。そこで長浜市は、それら近隣の観光協会と連携して、大河ドラマを呼ぼうという運動を起こしました。

 単に自分の街だけでなく、近隣を巻き込んだことが今回の大河ドラマ招致成功へと結びついたようです。

「無いから良いんです」

 今回の戦国カンファレンスにはさまざまな地域のみなさんがあつまって、いろいろな夢や、誘致活動の実際を語っていました。
 たとえば、「現在では無くなってしまった天守閣を再建する」とか。
 でもワタシが第三者的に見ると、不景気で税収の落ち込んでいる昨今、城を再建するとかあり得ないよなーって思ったりして。


 この部分、長浜市の北川さんは「無いから良いんです」と言い切ります。
「実際に来て見てもらうことで、来た人の頭の中にありありと当時の姿を思い描いてもらうっていうのがいいと思うんです。
 ここ、なんでもない山みたいだけど、ここが城だったわけです。
 写真で見るんじゃなくて、来てもらって、周りの風景の中で「ああ、これは普通の山じゃなくって、確かに城だったんだなぁ」と感じてもらいたいわけです。

 たとえばこの写真、なんでもない原っぱみたいでしょ?
 でもここで、浅井三姉妹は生まれたんです。
 時代は流れて、建物はなくなって、周りの景色は変わっても、そのときと同じ空が広がっているよ、と。
 そういうのを感じてもらいたいわけです」

まとめのようなもの

 「大河ドラマの誘致」をテーマに活動を続け、3回も誘致に成功した長浜市の北川さんですが、「できればまた4回目を呼びたい」ということで、これからも頑張るそうです。いやはやすごいですね。
 長浜市は「歴史ドラマ」という金脈が眠っている街なので、他の街がコレのマネをしても大河ドラマを誘致するのは難しいと思うんですが。
 でも、金脈が埋まっている山にあぐらをかいて座っていても、小判は出てきませんよね。キチンと金を掘り起こして、精錬して叩いて伸して小判になるわけで。
 金脈が埋まっている街にも、大変な苦労があるということがわかりました。
 じゃあ、ウチの街の場合はどうなんだろう? どうすればいいんだろう? そんな事を考えるきっかけになって、とても刺激的な時間でした。


 さて最後に話はちょっとそれるんですが。
 せっかくセガのゲームのイベントだったので、ハイテクっぽい提案を。
 さっきも書いたように、無くなった天守閣を再建するのは無理じゃないかと思うんですけど、そういうニーズはあるわけです。
 だから、こんなのどうだろう。
 観光地に良くある100円式望遠鏡に、拡張現実(AR)を組み合わせたようなモノ。
 外見上は望遠鏡なんだけど、内部的にはビデオカメラとモニターが組み合わさっていて、CGで再現した天守閣が合成して表示されるようなヤツ。各観光地の望遠鏡の設置場所に応じて、合成するデータは一台一台カスタマイズする必要がありそうですけど。
 セガさんの技術なら作れると思うんですが、どうでしょう?


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