ーOOO-クラゲ
江ノ島水族館は、クラゲが有名なのだそうだ。
もちろん他にも見どころはあった。
見上げるほど巨大な水槽には、イワシの群れがキラキラ光った。コバンザメはやけにひとなつっこくて、いつまでもダイバーの後を付いてきた。よちよち歩くペンギンは、水中では驚くほどの速さでびゅんびゅん泳いでいた。朝一番で元気いっぱいのイルカのショーは、ばっしゃんばっしゃん水しぶきが上がって見応えがあった。
しかし、江ノ島水族館はクラゲが有名なのだそうだ。
ワタシはだまってクラゲの水槽を見つめた。彼ら彼女らは、透き通ったからだをライトアップされて輝きながら、ぷくぷくと水をかいていた。漂っているような、泳いでいるような。どこに脳みそがあるのか、何を考えて生きているのか。
クラゲを見ることには、癒しの効果があるのだと言われている。わかったような、わからないような。
水族館を出て、あたりを散策した。
この日は晴れたあたたかい日で、海にはたくさんのサーファーや水上バイクを楽しむ人たちがいた。
楽しそうな人たちを見ながらも、心はいつのまにか津波のことを考えていた。江ノ島のどこまで水が押し寄せてくるのだろうか。陸に建つマンションはどれくらいの波に耐えられるのだろうか。島の一番高いところから辺りを見回し、ここならだいじょうぶ、あの辺はダメ、心の中で風景にそんな線引きをしていた。
気分転換に遊びに出たはずなのに、いつのまにか頭の中はそういうことでいっぱいになってしまう。別な場所でさらに気分転換することにした。そのまま東京方面に戻るのもつまらないので、別な方向の電車に。
ワタシは横須賀についた。
横須賀の駅前にはオレンジ色の船があった。まさか南極観測船?と近付いてみたら、「しらせ」と書いてあった。
あたりには軍艦が1隻、潜水艦が2隻。奥の方には米軍の基地があるらしいが、近寄ることはかなわなそうだ。海は海でも湘南とは全く違う雰囲気。ここは軍港なのだ。
港の周りに広場があって、みんなそこでキャッチボールや犬の散歩をしていた。ここは海のそばだけど、海で遊んでいる人は一人もいなかった。海にはやけにゴミが浮き、汚らしかった。
良く目をこらしてみると、ゴミが浮いているのは表面だけだ。海それ自体は澄んでいて、魚が泳いでいるのが見えた。
そしてクラゲが浮かんでいるのが見えた。
ぷくぷくと、透き通ったカラダで水をかいていた。水槽の中にいるのと違い、生き生きしていた。
彼らは決して潮の流れに逆らうことが出来ない。右に左にあおられている。しかし、マイペースにいっしょうけんめい水をかき、彼らなりにぷくぷくと自由を満喫しているようだった。
あてのない旅をつづける彼らと違い、ワタシには帰る場所があった。