ーOOO-あやしいおとこ

 会社帰りに深夜のコンビニへ。
 と、「あっ!」と声をかけられる。
 振り向けば、怪しい男が一人。
 その風体は、良く言えばヤンキー風。悪く言えばヤクザ的。浅黒く筋骨隆々、体中にジャラジャラとシルバーのアクセサリー。頭はグリグリのパンチパーマを刈り上げ、チョビ髭を生やしていた。
 とにかく通勤電車ではお目にかからないタイプのツラガマエで、もし街角で出くわしたら目を合わせずにそっと道をゆずってしまうような…。
 が、そんな怖くて怪しい男がワタシに声をかけてきたワケで。


 必死に脳みそを振りしぼって…と、思い出す。
「あっ!中学で柔道部の後輩だった、Kか!?」
「お久しぶりッス、センパイ」
 怖い顔がとたんにグシャッと崩れ、ヤツはひとなつっこく笑う。


「ホント久しぶりッスね…。あれ、センパイまだ実家にいるんスか?」
「いや、オレは実家を出て、この近所に住んでるよ。お前は?」
「オレはまだ実家ッスよ。家を出たってコトは、センパイは結婚したんスか?」
「オレはさっぱりだよ。お前は?」
「オレも全然ッスよ」
 ほぼ20年ぶりの再開。ちょっとした近況報告のつもりだったが、話が尽きる気配がない。あっというまに時間がたってしまう。
「じゃあそのうち飲もうか? 柔道部の他の奴らにも声かけるからさ」
「そっスね、イイッスね、じゃあ電話番号の交換を」
 さっそく赤外線で電話帳を交換すると、そこにはなぜか「鮫島」という名前が。
「おまえ、何で本名のKじゃなくて、鮫島で登録してんの?」
「へっへっへ、本名じゃマズいこともいろいろあるんスよ」
「??? どんなことだよ?」
「へっへっへ、イロイロっスよ」
 思いがけずに懐かしい出会いとなったが、とにかくこうして再会を誓うと、アイツはコワモテに似合ったド派手なVIPカーに乗って、爆音と共に去っていったのだった。


 その後、ワタシは一人、深夜のコンビニで買い物をしながら考えた。
 何でアイツ、偽名なんか使ってたんだ…?
 と、不意に疑問と不安がわいてくる。
 先に名乗ったのはアイツじゃない。オレが「Kじゃないか?」って呼びかけたんだ。
 20年ぶりに出会う後輩の顔なんか、記憶はおぼろげだ。ホントにあいつがKなのか、オレには自信が持てない。証拠なんか何一つないんだ。
 アイツはオレから上手に情報を引き出しながら、うまいこと話をあわせて、Kになりすましただけなんじゃないか?
 これはある意味で、新手のオレオレ詐欺というか、なりすましなんじゃないか?


 正体不明、目的不明の怪しい男。
 その不安を打ち消そうと、オレは必死で会話の内容を思い返す。
 あ、アイツ、「まだ実家に住んでます」って言ってたっけ?
 確認のために、ヤツの実家まで偵察に。
 そこにはさっきのVIPカーがありましたとさ。
 あまりの怪しさに、つい疑ってしまった…ということは、今後ヤツにはナイショにしておきたい。