ーOOO-かべおとこ

 ワタシの通っている接骨院は、毎回担当のセンセイが違う。…と言うと、かなり驚かれる。普通は担当のセンセイを決めるものらしい。
 マッサージは個人技だから、当然上手い下手がある。それから、センセイの技術と患者サンの身体の相性が悪いと、かえって調子を崩してしまうものだ。
 会社の知り合いのヒトは、接骨院ではつねにセンセイを指名するのだとか。「身体に合わないセンセイに、いじり壊されるのもイヤじゃん?」という。


 しかしワタシの通う接骨院は、毎回担当のセンセイが違う。
 院長センセイいわく、「毎回同じ刺激を与えると身体が慣れてしまうので、効き目が薄れてしまうんです」ということで、毎回もむ場所や技がちょっとずつ違う。
 毎回センセイを変えないのと、毎回センセイを変えるのと。どちらがいいのかワタシにはよく分からない。ただ、ワタシの通っているところはそういう流儀なのだった。


 ワタシが通っているのはチェーン系の接骨院なので、年に1度、センセイが異動する。誰かがいなくなって、そのかわりに新人さんが研修にやってくる。免許取り立ての若葉マークのセンセイだ。
 こういう新人さんは、なぜか必ずワタシの担当になる。
 なんでかっていうと多分、ワタシがあんまりうるさくないから。あと、この店に長年通ってて気心が知れてるから。そしてたぶん一番大きな理由は、ワタシのカラダがガチガチに凝っているからだ。
 ワタシは「カベ」として、あるいは「木人形」として、新人のセンセイのお相手を務めるのだった。


「よろしくおねがいします! 今日はどこが凝ってますか?」
「んーと、主に肩と腰だけど、全身でよろしくお願いします」
「はい!わかりました!」
 新人のセンセイはやけに丁寧な手つきで軽くワタシの全身をさすり、どこらへんがどういうふうに凝って緊張しているのかを探っているようだ。
「全身ガチガチですね−。ではまず肩と背中から。」
 背骨に沿った筋肉に指を立て、力一杯押す。
 しかし、まだまだ弱い。
「力加減はどうでしょうか?」
「んー、もうちょっと強く」
 ぐい、と力が増してくる。指がぷるぷるして、ヒジががくがくなっているのが伝わってくる。
「これくらいでッ、いかがでしょうかッ!?」
 センセイの声にも力が入る。
 しかしこれっぽっちも効いちゃいねぇ。
 新人のセンセイのカベ役として、心を鬼にして言う。
「んー、もうちょっと強く」
「えー!まだ効いてないですかッ?」


 こうして新人のセンセイにもんでもらった後は、必ずフォローとして院長センセイがワタシのカラダを揉み直してくれる。
 院長センセイはさすがに慣れたもので、ずぶりずぶりと指がツボに刺さってきて、ワタシはヒイヒイ言わされるのだった。指圧の極意は腕力ではない、というのが良くわかる。
 新人センセイと院長センセイ、あわせていつも以上にしっかり揉んでもらえるので、けっこうカベ役も良いモノなのだった。